月下の印2 ( No.1 ) |
- 日時: 2005/07/28 15:08
- 名前: 千都香 椿
- 「うあああ!!」
「きゃああっっ」 大声をあげるそいつらにお構いなしに、棗は刀を振り上げる。そして…。 ザクッという鈍い音とともに、血しぶきが頬を濡らす。 この感触が、たまらなく好きだ。 口元に付いた血をぺろりと舐めると、だっと駆け出す。 他の奴らはおまけ。 本当に殺りたいのは…あ・い・つ。 護衛の者たちを虫けらの様に斬り倒し、この屋敷の主の元へ。 「いやだ…いやだああああああああ!!!!」 がっと気持ちの悪い音を出し、老人は息絶えた。
|
Re: 月下の印 ( No.2 ) |
- 日時: 2005/07/28 15:23
- 名前: 千都香 椿
- 月の光がまぶしい。
殺しが終わったあとの月光は、好きだ。 慰めてくれているようで。血を、洗い流してくれているようで。 「はあ…疲れたァ〜」 ごろんと横になると、棗は悲しそうに目を細めた。 人様の屋根で寝るのなんてごく普通。 殺し屋に家なんてあっちゃいけない。突きとめられて、焼かれてしまうから。 「ほんとは、帰りたいんだけどな……」
棗の家は、とても良い家柄だった。 徳川家の者とも親しく、かなり裕福な暮らしをしていた。 家の材木は総檜。庭には池があり、そこを錦鯉が気持ちよさそうに泳ぐ。 良い家なので、当然しつけも厳しかった。 『棗!何をしているの!何度言ったらわかるのかしら。…本ッ当、緋狩とは違うんだから。』 棗には、緋狩と言う名の兄がいた。 歳は2つ違い。棗に比べ、書道や剣道、空手と、なんでもできる兄だった。 だから、棗はこの兄が嫌いだった。いつもこいつと比べられるから。 だが、4年前に行方不明となってからは、両親の愛情はすべて棗に注がれた。
|
Re: 月下の印 ( No.3 ) |
- 日時: 2005/07/28 15:51
- 名前: 千都香 椿
- 『棗、こうすれば良いのよ』
『凄いぞ、棗。さすがは俺の子だ』 今までの扱いはなんだったのだろう。父と母の態度は一転した。 棗は喜んでいた。こんなに褒められたのは初めてだったから。 学問だけじゃない。武術にも励んだ。 だが、あるとき。 母が病気になった。父の介抱も虚しく、翌月には死んでしまった。 父は狂った。狂い、周りの人間を殺していった。 そして棗は、泣きながら父を殺した。他の人を助けたかった。 だが。もうそこには肉の塊と、むせ返るような死臭しか無かった。 だから、殺し屋になったのだと思う。 父を殺したのを、いや、人を殺したのを“当たり前”にするために。
「なんでだろ。思い出す…」
じわりと滲んできた涙をぬぐって、棗は瓦を蹴った。
|
月下の印 ( No.4 ) |
- 日時: 2005/07/29 14:54
- 名前: 千都香 椿
- その時
かちりと音がした。 誰か居る。後ろ!?チャッと刀に手を掛け、抜こうとするが。 「………ッ」 背後に居る者に、首筋に刀を当てられて動こうにも動けない。 (さっきの屋敷の?まだ残ってたのか) そこに居た奴らは、みんな殺したはずなのに。 「…誰だ」 「お前に名乗る義理はない」 声からして男だと思う。低くはあるがスッと通っている、綺麗な声。 「追っ手か?」 「追っ手?なんやそれ」 どうやらこの男は関係ないらしい。 「じゃあ、なにしてる。刀をどけろ」 男に背中を向けたまま、棗は命令する。 「…嬢ちゃん。ちょっと遊ばへん?」 「遊び…?」 いきなり何を言い出すのか、この男は。 「さっき、そこの屋敷のモン殺しとったやろ?それ見とったん。えらい強いな思て」 じゃあ、尾行されていたのか。気付かないなんて、殺し屋失格だ。 「嬢ちゃん、俺が誰か気になっとんやろ?せやから、勝った方が相手の顔みてよし。負けた方は名前も名乗らなアカン」 返事もしていないのに、この男は楽しそうに話す。 「…ちょっと待て。顔を見ずにどうやって勝負する」 「この布、目に巻くんや。目隠しして屋根上で戦う。もちろん落ちるかもしれへんがな」 多分サラシの切れ端だろう。スッと白い包帯を差し出される。 「誰がこんな馬鹿馬鹿しいこと…」 「恐いんか?」 ぴくりと肩が震える。 この男に気付かなかったこと。殺しが終わったあと。 一番イライラしているのに、挑発してこられると。 「やってやる」 眼光を一層鋭くし、棗は答えた。
|
私です、妃薙瀬です!!! ( No.5 ) |
- 日時: 2005/07/29 15:06
- 名前: 妃薙瀬ユウ
- 椿さん…ですか!?
書いてくださったのですか!!! うわぁ〜!!! おもしろいです!私の“ツボ”にはまりました! 続きが楽しみです!!! あっ!お話の途中、コメントを書いてしまって申し訳ありません!!!でも、楽しいです!!! では、また!!!
|
月下の印 ( No.6 ) |
- 日時: 2005/07/29 21:36
- 名前: 千都香 椿
- 「これで良いのか?」
「ええで。ってか、俺もサラシ巻いとるから、どないなっとるか分からへん」 「行くぞ!!」 刀を抜き、どこにいるか分からない相手に向かって走り出す。 地面は瓦だ。ごつごつしていて滑り易くもある。気を付けないと、落ちてしまう。 「…っクソッッ!!」 何度刀を振り下ろしても、男にはあたらない。棗の苛つきはどんどん増していくばかりだ。 「そないにビュンビュン振り回わしても、当たらんで?」 「うるさい!!」 本当にうるさい男だ。でも、棗は知らずに笑っていた。こんなに楽しいと思ったのは、久しぶりだろう…。 「めーっけ」 金属のひやりとした感触が喉に当たる。くっと小さく呻き、棗は座り込んだ。 「どうして分かった?」 「さァ?秘密や」 そして男もどさっと隣に座った。 「名前、聞かしてもらおか」 「…弥勒 棗」 「棗、か。ええ名やな」 誰にでも言えそうな台詞を言われても、嬉しくともなんともない。棗はそれ以上喋らなかった。 「じゃ、賞品。見しても−らお」 するりと自分のサラシを解いた。棗は巻いたままだが。 「目ェ、瞑っといて」 なんでかは分からない。言われるがままに、サラシの下、目をゆっくりと瞑った。 男の手が頭の後ろに回る。太い指が、頬にあたる。 (くすぐったい…) サラシがゆっくりと解かれ、瞼から月光が透けて見えた。 「綺麗や」 男はほうっとため息をつき、そう呟いた。 「目、開けてもいい…?」 「駄目。勝ったのは俺やで?」 「ケチ」 「ケチで結構」 そして首筋にチクリと痛みが走った。 「痛ッ…!?」 思わず目を開けてしまった。男が自分の首に顔を埋めていた。 そしてゆっくりと、立ち上がった。 「印」 「しるし…?」 「そ。また、ここで会おうな。そんとき、すぐに分かるやろ?」 月の光でよくは見えない。ただ、綺麗な瞳がこちらをじっと見ていた。 「いつ…?」 「さあな」 じゃあ、と一言残し、男は去っていった。 暫く棗は余韻に浸っていた。あんなことをされたのは、初めてだったから。 「また会えるよね」 首に付いた赤い跡を、そっと指でなぞった。
|
月下の印 ( No.7 ) |
- 日時: 2005/07/30 14:42
- 名前: 千都香 椿
- 翌日。
「おばちゃ〜ん、お団子3本ちょーだいっ」 お茶屋の長椅子に腰掛け、そう言いながら棗は財布の中を覗いた。 (ったく、なんで私が買い物なんか…) 棗は時々、仲介屋の虎之助の所へ泊まる。詳しい年齢は知らないが、ぱっとみ30代後半だろう。 いつもはおちゃらけているが、仕事のときは別人の様にヒヤリとしている。 『棗ちゃーん、泊めてやったから、お遣い行って来てや?』 断れば仕事探しという手間もかかるようになるだろうし、仕方なく町へと出てきた。 「はい、お待ちどう」 「ありがと」 はむ、と団子を一個食べる。おいしい…、とうっとりとなった棗を見て、店主のおばさんはクスクスと笑う。 「なに、おいしい?」 「うん、ここのお団子が一番!他のところのなんて、食べれなくなるよ」 「嬉しいこと言ってくれるやん、百合ちゃんは」 百合、とは棗が使っているもうひとつの名だ。 “弥勒 棗”の正体がばれないよう、仕事以外ではこう名乗っている。 「あら、首はどないしたの?」 「え?」 そう言えば、昨日あの男につけられた−−−! 棗はうつむき、真っ赤になった。 「百合ちゃんは、こういうの疎そうやったのになぁ」 店主のおじさんまで、からかいに出て来た。 「男の人には、あんまり興味ないもん」 頬を赤く染めたまま、棗は残りの団子を口に運んだ。 「そんなコト言わんでや〜。おじちゃん悲しくなるで?」 「えへへ。おじさんは別だよ」 「お、上手いこと言うなあ。お団子一本っ。特別や」 棗はとびっきりの笑顔を見せて、「ありがとうっ」と言った。
|
月下の印 ( No.8 ) |
- 日時: 2005/08/01 20:43
- 名前: 千都香 椿
- その後もおじさんやおばさんと他愛もない会話をしていた。その時、ドサッと隣に男が座った。
椅子が揺れたので、ちょっとムカッとし、棗はしばらく横目で見ていた。 「いらっしゃい」 「…饅頭1個。あと、茶」 男はそれだけ言うと、頬杖をついた。 年齢は17くらいだろうか。 前髪は短く、後ろの方は長い。と言っても肩に付くくらい。唇は薄く桃色で、整った顔立ちである。 「何や?」 相手に気付かれてしまうくらい、じっと見ていたのだろうか。すみません、と一言いって、残りの団子をパクリと食べた。 「お待ちどう」 饅頭を持ってきたおじさんにペコリと頭を下げ、じっと座っている。 (何してるんだろ。食べないのかな…?) 余計なことだとは分かっているが、好奇心旺盛な年頃。やっぱり凝視することはやめられない。 「欲しいんか?」 「え!?」 見とったやろ、と促され、首を横に振る。 なんで見ていたのだろう。こっちを向いている男を真正面から見たとき、ハッとした。 「あの、どこかで…!!」 どこかで会ったことがある。そう思ったのだ。綺麗な瞳、この声…! 「昨日…っ」 「さあ。なんの事やろ?」 意地悪そうにそう言うと、ほれ、やるよ、と饅頭を棗の手に取らせ、立ち上がった。 「名前、教えてくださ…」 「猛」 たける…。口の中でそう呟くと、棗は礼を言った。 でも、男は遠くに行ってしまっていた。
|
月下の印 ( No.9 ) |
- 日時: 2005/08/02 18:22
- 名前: 千都香 椿
- その夜、棗は猛と会ったあの屋根に来ていた。
(来るかなあ……) ビュウと吹く風は冷たく、風邪を引いてしまいそうだ。月の明かりが優しく照らしてくれる。それを頼りに辺りを見回すが。 「居ない…」 猛の姿は見あたらない。 『また、ここで会おうな』 そう言ったのは、自分のくせに。もう来ないと分かって、棗はうつむきながら虎之助のところへと戻った。 それでも、なぜか気になってしまう。会いたい、会いたい…。その一心で毎夜屋根に登った。 寒くて、凍えそうだった。瓦の冷たさが身に凍みて、泣きたくなりそうだった。 でも、泣きたくなる理由はそれだけでは無いのかも知れない。今まで感じたこともない甘い感じ。締め付けるような胸の痛み。 「何で、何で来ないの……?」 ポタポタと手に涙が落ちる。最初は小さい嗚咽だったが、それは時が経つにつれ大きくなっていった。 「なに泣いとんの?」 その時だった。綺麗な、澄んだ声が後ろから聞こえた。 「た、ける…?」 「いきなり呼び捨てかい?」 真っ赤になって下を向き、顔を見せないようにした。 「何で来なかったの?5日も…ずっと待ってた。何で?」 「そりゃ、美人の不安げな顔 見とるのが楽しいから、やなぁ…」 それじゃあ、毎夜棗の姿は見ていたのだろうか。 「ばっか…」 会えた喜びを素直に表現できない。可愛くない、とボソッと呟き棗は立ち上がる。 「慰謝料、払って貰う!」 「は?」 「私待ってた。でも来なかった」 「…??いくら?」 棗はゆっくりと猛に近づいた。
|
月下の印 ( No.10 ) |
- 日時: 2005/08/07 16:17
- 名前: 千都香 椿
- 猛に顔を近づける。
「なんや…それか」 猛は目を瞑り、うっすらと口を開ける。 「舌、ちゃんと入れて」 そう言うと棗は、思いっきり頭突きを喰らわせた。 「…ってェェ………!!何すんねん!」 舌噛んだ、としかめっ面をする猛に、棗は満足気に笑う。 「私の頭突き、痛いでしょう」 私も痛い、と呟く。 猛は笑いながら、 「なんや、ちゅーしてくれんのかと思ってた」 「ばーか」 本当はそうしたかった。だけど、恥ずかしくて。 「してくれへんのなら、俺からするまでや」 ゆっくりと、猛の顔が近くに来る。 目を瞑ると、すぐに唇に暖かい、柔らかい感触が。 「ん…」 初めてのそれは、甘いというよりも苦しくて、でも離れたくなくて。 抱き締めると、猛も返してくれて。 刀の瓦に当たる音で、ふと我に返る。 「離せ…っ!」 真っ赤になった顔を見られたくなくて、猛を押し返す。自分からあんな事をやったのが、妙に恥ずかしく思えてくる。 「っ…」 急に、猛が苦しそうな顔をした。 「…?猛………?」 棗が押したそこは、じんわりと赤い血が滲んでいた。 「猛、…ッ怪我してる…!!」 「大したこと、あらへ…ッ」 「来て!」 虎之助のところで治療してもらおう、そう思ったのだ。
|
Re: 月下の印 ( No.11 ) |
- 日時: 2005/08/07 19:22
- 名前: 兎菊
- グロイッすね…。
|
Re: 月下の印 ( No.12 ) |
- 日時: 2005/08/07 20:02
- 名前: 千都香 椿
- 感想は嬉しいですが、ちょっと…。
今度からコメントは控えてください。 すみません。
|
月下の印 ( No.13 ) |
- 日時: 2005/08/09 15:45
- 名前: 千都香 椿
- 「虎之助!居る!?」
今までだしたことも無いくらいの大声で、棗は叫ぶ。足音が荒いのが、自分でも分かった。 「ドタドタうるせェなぁ、棗…」 いま何刻だと思ってる、と呟く。 「虎之助……」 今にも泣きそうな顔で、弱々しく名前を呼ぶ棗。 隣には見たこともない男が、荒い息を吐いている。 「誰だ、そいつ」 しんとした廊下に響く声は、気のせいか少しばかり冷たかった。 「猛…。猛って言うの」 「そいつが?」 どうした、と煙管を口に持っていき、冷たく問いかける。 「怪我、してる」 いつもと違う雰囲気の虎之助に驚きながらも、棗は震える手をギュッと握りしめながら答えた。 「手当てさせて!お願い!!」 必死に訴える棗は、自分の知っている棗じゃないような気がした。 それが妙に勘に障って。 「だからって、なんでうちに連れてきた」 「え…?」 呆然とする棗を見て、ハァ…と煙とともに息を付き、じっと猛を見据える。 「その男が、忍びだったら?」 確かに猛は忍びだ。前にそう言っていた。 「ここ、焼かれるぞ」 その言葉に、棗はハッとした。 でも、猛は…。 「猛は、そんなことしない!!」 「なんで分かる」 「信じてるから!」 もういい、と棗は踵を返す。 「猛、うち行くから。大丈夫?」 そして後ろを振り向くと虎之助に、今までありがとう、と言った。 「…勝手にせい」 ギシ、と板のきしむ音が、一定の間隔で響いていた。ガラッと戸が開く音が聞こえたあと、虎之助は独り残った。 「好きだったのになぁ」 煙管からは、まだ煙が出ていた。
|
月下の印 ( No.14 ) |
- 日時: 2005/08/17 15:03
- 名前: 千都香 椿 <mitchya_a@hotmail.co.jp>
- 「猛、大丈夫…?」
もう大分歩いた。もう少しで、誰も居ない自分の家が見えてくるハズだ。 「ああ、心配あらへん」 そうは言っても、苦しそうにしかめた顔は、棗を心配させる。 「…御免な。本当に、」 「良いよ」 まだ何か言いたげな猛の言葉を遮り、棗は明るく笑った。 (虎之助とは、もう…) 会えない、とぽつりと呟く。 家を出た自分を拾い、寝床を貸してくれたり食べさせてくれた。 仕事の仲介までしてくれて、本当に世話になったと思う。 こんな形で別れなければいけないことが、ずるずると引きずられている。 でも、猛の前ではそんな事を表情に出してはいけない。 「見えてきた。あれ、私のうち」 って言っても、大分帰ってきて無いんだけどね、と苦笑する。 「立派なお屋敷やな」 「まあね」 大量の血が出たからだろう。貧血状態の猛は、そう言いながらも下を向いていた。 「ただいま」 返事があるわけない、と分かってはいるが、今まで虎之助のところにいた名残がある。 『おう、おかえり』 怪我はなかったか、といつも付け加えて、虎之助は笑顔で迎えてくれたのだ。 …どんなに、夜遅くても。寝ずに棗の帰りを待ってくれていた。 「ちょっと待ってて」 自分の部屋に猛を置いて、薬や包帯が入った箱を取りに向かう。 久しぶりに…3年ぶりに帰宅したので、探すのに時間がかかった。 (猛、大丈夫かな) ドタドタと走りながらも、自分の家の庭を眺める。 綺麗だった池も、鯉は死に水苔が浮いて汚くなっている。草も所狭しと生え、ズキンと胸が痛んだ。 (もし、誰か居たら) そんなわけない。父が全員殺したのだから。そしてその父は、自分が殺したのだから。 「猛」 部屋のふすまを開けると、猛はすーすーと寝息を立てていた。
|