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スイカこわい?
日時: 2005/04/25 21:50
名前: カリート

どもどもゴズィラさん。カリートとかいう者です。
パワプロ小説、コメディタッチの短編といったモノを
こちらに投稿させていただきたく思います。

構想より一週間、自分では比較的スラスラ書き上げたは
良いんですが手許に置いておくと我がバカパソコンの
餌食になること必至という事情もあり、信用するに足る
ゴズィラさんのサイトへ拙作の投稿を決めました。

もともと夢創はパワプロサイト脱却を志向していた
サイトを礎とするトコだよなあとか考えて投稿を一度
ためらいましたが、ゴズィラさんも近時は二次創作を
再開なされたようで、この拙作『スイカこわい?」を
気に入ってもらえれば、これ以上の幸いはないです。
メンテ
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スイカこわい?(上) ( No.1 )
日時: 2005/04/29 13:01
名前: カリート

葉桜の木かげからギラつく太陽がこちらをのぞいている。
朝に降った雨はすっかり乾いて地面に水たまり一つない。
しかし夏真っ盛りというにはまだ早い時期である。

二宮「うへぇ。暑くなってきやがった」
六本木「そんなヘアバンド付けているからだよ瑞穂」
四条「推測するに不快指数がかぎりなく100に近いだろう」
七井「甚だキモチワルイ。倒れそうネ」
三本松「これだから梅雨の時期は嫌いなのだ……」

午後の打撃練習を終えて室内練習場を出た、あかつき大附属高校のレギュラー陣。
快適な空調に制御された室内とはうって変わって外は30度を
超える気温と6月のムッとする湿気で、5人は一挙に顔をゆがめた。

七井「次は実戦守備だネ。やる気が起こらないヨ」
二宮「おい四条。今日はもう止めにしよう。大会前にケガでもしたら事だ」

今日は鬼監督の千石が不在のためメニューは主将である四条に一任されている。

四条「大会前だから練習しなきゃダメだろう」
六本木「期待するだけ無駄だったか」
四条「俺だけを悪者にしないでくれよ。さあ!練習だ」
三本松「わかった。わかったけど少しワシらに休息をくれ」

そう言って三本松は室内練習場と1軍専用グラウンドの中間に配置された
水飲み場の傍らにもたれるように腰をおろした。他も無言のまま、同意の表情で水を飲んだり
ヘアバンドを絞ったりサングラスをはずして顔を洗ったりする。

四条「コラー!……まあ仕方ない。良しとしようか」

あまりの不快さに四条も折れた様子だ。常日頃のように怒らない。
三本松の隣りに座って一呼吸ついて、メガネをとってタオルで汗をぬぐう。

四条「5分したら行くからな」
二宮「へいへい。厳格なキャプテンだぜホントに」
六本木「そういえば五十嵐は?」
七井「授業に出てるらしいネ。五十嵐はインテリジェンスな男」
二宮「目指せ官僚大!ってか。野球部と受験生。二足のわらじは辛いねえ」
三本松「む。ウワサをすれば、あれは五十嵐ではないか?」

三本松が校舎のほうを指さす。
陽炎の浮きたつ中に見える制服、野球部の帽子のはまったデカイ顔は
間違いなく五十嵐権三その人である。こちらへ向かってくる。

六本木「遅かったね五十嵐」
五十嵐「すまん!英作文の問題にてまどってしまった」

顔に汗一つかいていない五十嵐を見て、ヘアバンドを付けなおした二宮がさも不機嫌そうに言う。

二宮「栄作だかB作だか知らねーけどよ。
この時期は野球を優先するべきじゃねーのか普通。
お前は仮にもあかつきのレギュラーサードなんだぜ?」
五十嵐「その通りだ。勉強のことは何の言い訳にもならない」

非を認める五十嵐。が、二宮のさもうっとうしげな言いかたが癇にさわったらしい。

五十嵐「だがな、何だこのだらけっぷりは。偉そうに言える立場じゃないだろう!」
二宮「ああん?クーラーガンガンの部屋でくつろいでたヤツにはこの気分の悪さはわかんねーよ!」

険悪なムードが2人のあいだに漂う。

四条「どうも暑さで気が立っているようだ」
六本木「まずいなァ。止めてきてよ三本松」
三本松「ワシが?そんな大役務まらん」

みんな暑さにまいっていて喧嘩の仲裁を買ってでる気力もない。
もっとも2人の言い争いがこれ以上発展することはないだろうという予測があっての不作為である。
一方が折れて、気持ちよく和解するのがレギュラーメンバー間の喧嘩では常であった。
が、今日は不快な天候というプラスアルファがあることをみんなは考慮していなかった。

七井「ヤバいヨ。二宮が五十嵐の胸ぐらをつかんでル」

二宮は五十嵐に謝罪の言葉を求め、五十嵐は二宮の手を振りほどこうと
もがいてうめき声をあげている。一同、虚をつかれてびっくりする。

四条「おい二宮!止めないか」
三本松「仕方ない。力づくでもひき離すぞ!」

と、2人に近づく三本松の足元をオレンジの物体が風のように通りぬけた。
それは喧嘩している2人の手前で停止する。
逆立たせたヘアスタイル。
160cmに満たないと思われる身長とつぶらな瞳をした童顔。
一見して小学生に間違われるこの男の子は「あかつきのイダテン」とあだ名される、
チームの核弾頭にして超高校級の俊足で、かつムードメーカーの役割もになう八嶋中である。

八嶋「さっきから大声でうるさいぞお前ら。
いったい何してるんだ?楽しいことならオイラもまぜてくれ」
二宮「中……。全然楽しいことじゃねー。とりあえずあっち行っていろ」
八嶋「もしかしてお前らケンカか?ケンカしてるのか?」

八嶋の目には大粒の涙がたまっている。まずい。
これを見た2人は瞬時に離れて泣き出しそうな八嶋をなだめる。
八嶋は子供のような純なる心の持ち主で、ひとたび泣き出すと手におえないのだ。

五十嵐「違うぞ八嶋!ちょっと口喧嘩に」
八嶋「ぐすっ。やっぱりケンカなのか。オイラそんなのイヤだよ」
二宮「(五十嵐のボケ!)中。勘違いだよ。オレたちストレッチしてただけだ」
八嶋「ホントか?」
五十嵐「そうそう。ほらこうやって……」
二宮「(痛えなコラッ!)な、ケンカなんてするわけねーじゃねーか」
八嶋「だよなー。ケンカなんて楽しくないことするヤツはバカだ」
五十嵐と二宮「…………」

3人のやりとりを聞いていたメンバーは、喧嘩をしていた2人の慌てっぷりと
最後の八嶋の言葉に大笑いした。

六本木「あはは。中には誰もかなわないな」
三本松「まったくだな。ガッハッハ!」

途中から来たので流れのよくわからない八嶋はキョトンとした顔。

八嶋「みんな何で笑ってんだ、気持ち悪い」

この八嶋、子供のような心の持ち主である分、感情をオブラートに包んで
口にするということも知らない。

四条「まあまあ。それで五十嵐、その英作文の問題ってのはなんだったんだい?」
五十嵐「ああ、『夏の風物詩』について書けという問題でな」
七井「なんだナツノフウブツシって」
二宮「アレフトには難しいか。要するにだな。
えーと、それを見ると『夏がきたなー』って思うようなモノのことだ」
七井「へー。それで五十嵐はなんて書いたんダ?」
五十嵐「夏って言えばこれしかないだろうって奴を書いた。みんなすぐわかるぞ」
六本木「夏……ねえ。ボクは『風鈴』かな」
三本松「いや、やはり『カキ氷』だろう」
四条「五十嵐のことだ、ズバリ『蚊』に違いない」
五十嵐「ブー!みんなハズレ。夏にはもっと大事なモノがあるだろう!」

五十嵐が意味ありげな笑顔で言う。
すると八嶋「あー!」と叫んでみんなに聞こえないよう五十嵐に耳打ちする。
その姿は父親とじゃれる子供のように見えなくもない。

五十嵐「正解!中は勘が鋭いなァ」
八嶋「えへへ。簡単だったぞ」
七井「やるなーアタル。アメリカの夏といえばラッキープールだナ」

全国有数の負けず嫌いが集まったあかつき大附属高校、しかもそのレギュラーである。
八嶋ひとりだけ正解しているのがみんな悔しくてたまらない。眉間にシワをよせて考える5人。

六本木「そうめんじゃないかな」
四条「蚊取り線香」
三本松「水茄子の漬物なんてどうだ」
七井「監督が送ってくれるウナギ!」
五十嵐「正解者は……いません。残念!」
「「「「ええーー!!」」」」

みんな心底残念そうなリアクション。一抜けした八嶋はニコニコ笑っている。

八嶋「みんな考えすぎだよ。ヒントはオイラたちと関わりの深いこと」
二宮「よっしゃー!これにまちがいねー!」

パンッと手を叩いたのはあぐらを組んで考えこんでいた二宮。
目の色は自信満々、五十嵐に近寄って答えをささやく。

二宮「正解だろ?おい。焦らさねーで早く正解って言えよ」
五十嵐「……ブー!『スイカ割り』って俺たちに関係あるか!?」
二宮「いや特には」
七井「まあスイカ割りにはバットを使うからネ」
六本木「いいね。浜辺で騒ぎながらのスイカ割り。夏って感じがするよ」
二宮「だろ!?正解にしやがれコノヤロー!」

二宮は五十嵐のクセッ毛を引っつかんで怒鳴る。しかし今度は悪ふざけ程度である。

五十嵐「いててッ!正解したって何にもでやしないぞ!ワハハ」

と、和やかな空気の中、ひとり八嶋中が元気をなくしている。
四条はその様子が気になって「どうしたんだ八嶋。具合でも悪くなったか?」と聞いた。
すると蒼い顔をした八嶋がふたたび泣きそうな顔でこう切り出した。

八嶋「じつはオイラ、スイカが怖いんだ」
「「「「はっ?」」」」

それを聞いた一同、目が点である。
笑うところなのだろうか、何かツッコミをかますべきか。
長々と迷っていたが、八嶋の表情を見ているととても冗談とは思えない。

八嶋「ああ。なんか寒くなってきた。オイラ先に守備練習に行ってるから」

八嶋はくるりと背を向け、1軍専用グラウンドに駆けていってしまった。

「あっ、チュンやないか!って――いつ見ても速いのう。あれ、みんなどないした?」

と、その弾丸のような八嶋のそばをすれ違って一同の方へ向かってきたのは
ライトのレギュラー九十九宇宙。
左肩にバッグをかついで、右手に団扇を持ってパタパタ顔へ風を送っている。
九十九のくわえたハッパは暑さのためにくたびれている。

九十九「おいおいチュン泣き顔やったぞ。あんまりいじめたらアカンで二宮」

九十九は仲間内では八嶋中のことをチュンと呼ぶ。麻雀用語である。

二宮「何でピンポインドでオレに言うんだよ」
九十九「あのピュアーなチュンをいじめる男なんてこのなかじゃ二宮しかおらん」

「正しい判断だな」とユニゾンして思ったのは三本松と四条と五十嵐と七井。

二宮「違うだろーが……。誰か説明してやってくれ」
六本木「九十九は『夏の風物詩』ってなんだと思う?」
九十九「んー『花火』やな。天神祭みたいな、いつまでも続く大花火や」
六本木「うん。わかるな。瑞穂は『スイカ割り』だって答えたんだ。
そしたら中、蒼い顔して『オイラ、スイカが怖い』だって。グラウンドへ逃げて行っちゃったんだよ」

その話を聞いて九十九も目が点。
表情を言葉に変えるならば簡単で、「意味わからん」といった感じである。
しかし九十九、すぐに合点がいったというふうに笑い出した。

九十九「ひゃひゃひゃ!チュンも考えたもんや。みんな俺には真実が読めたで」
三本松「どういうことだ九十九?」
九十九「まあ待てや。みんな『まんじゅうこわい』って落語、知っとるか?」
七井「知らないナ」
二宮「オレも知らねーな。その落語とさっきの中の態度と何の関係があるんだよ」
五十嵐「俺にはわかったよ」
四条「『まんじゅうこわい』は知っているよ。俺にも読めた」
九十九「やろ?じゃあ四条『まんじゅうこわい』のあらすじを説明したってくれ。俺も水飲みたいんや」

ドサッと重量感のある野球部のバッグを地面に置き、九十九は水を飲みはじめた。

四条「コホン。では行きます。『まんじゅうこわい』」

ぱちぱちぱち、と一同なぜか拍手。

四条「ある長屋の寄り合い所に若い衆が集まって、自分の苦手なモノの話をしていました。
ある人は蛇が怖い、俺はタヌキが怖い、コウモリが嫌だ、やっぱり毛虫だ、
はたまた一列に歩くアリだという感じで。そんな中でだまっている男がいました。

『お前は怖いもんねえのかい?』

男にそう聞くと『何にも怖くねえ』と答える。
蛇もコウモリもアリも全然怖くないと言いはって威勢がいいんだ。
しかしその男、突然話すのを止めたんで周りのみんながどうしたのかと聞くと
『怖いものを思い出した。俺はまんじゅうがこわい』と言う。

『思い出しただけで気分が悪くなった』

男の顔色はみるみる悪くなって、隣りの部屋に布団をしいて寝込んでしまう。
これを見て若い衆は笑って、いたずらをすることにしたんだ。
町に出てありったけの種類の饅頭を買ってくる。
そして男の枕もとに置いてふすまを隔てた隣りの部屋で様子をうかがう。
案の定、叫び声が聞こえてきてもう大爆笑さ。

『みんなどうしてこんなことするんだよう。まんじゅうこわい、まんじゅうこわい』

そう繰り返すたびに若い衆は大喜び。
まんじゅうこわ……まんじゅうおいし……こわ、ん?様子がおかしい。
部屋の中をのぞいてみると男はまんじゅうにパクついていた。

『うれしそうだぜ。こりゃいっぱい食わされた。なあ、本当は何が怖いんだい?』

するとまんじゅうを飲みこんだ男はこう答えたんだ。『おいしいお茶がこわい』ってね」

みんなオチに軽く笑う。が、水を飲んだあとくつろいでいた九十九は真顔で、

九十九「2点。味もそっけもあったもんやない」
四条「ダメ出しはやめてくれよ。みんな言いたいことはわかっただろう」
二宮「わかるぜ。大好物をこわいって言って、周りにそれを持って来させる」
六本木「それと一緒で中は、本当はスイカが大好物だってことか」
七井「なるほどナ。ずる賢い手だネ」
三本松「しかしあの八嶋がうまくウソをつけるもんだろうか」
九十九「甘いなあ、ダンナ。チュンも成長したってことや」
五十嵐「いや、八嶋はそんなことする奴じゃない。きっと本当にスイカが嫌いなんだ」
四条「俺もそう思う」

八嶋のスイカ疑惑をめぐってメンバーは二手に分かれる。
「まんこわ」派には九十九、六本木、三本松、七井。
一方の真実派は四条、五十嵐、二宮というカタチになった。

九十九「よーし。こうなったら賭けにしようやないか。
負けたほうは朝メシと掃除の当番をかわりにやるってのはどうや?」

あかつきの野球部員のほとんどは寮生活である。
(このメンバーでも四条以外は全員が寮で暮らしている)
そのため金銭が必要になる場合はほとんどなく、
賭けると言っても雑役の交代などしかなかったりする。

三本松「当番交代だけじゃ物足りない。スパイクも賭けようじゃないか」
五十嵐「なに!」
四条「スパイク!?」
二宮「……いいねえ。つい最近スパイク履きつぶしたばっかりなんだよオレ」
六本木「僕もだ。四条のスパイクなら同じぐらい履けると思う」

普段はみんな練習の虫である。
普通の高校球児からすれば必要以上に配給されるスパイクも、
彼らは凶悪な早さで履きつぶしてしまう。
だからスパイクという景品は、彼らをして賭け事に走らせるに足る
重要な意味を持っているのである。

九十九「よーし、面白くなってきたで。スイカは今日の練習後に用意するわ」
七井「おカネはいいのか九十九?」
九十九「ええねや。何か商店街の八百屋の娘さんに気に入られとってな。
たのんだらタダでくれるやろうから」
三本松「八百屋の娘さんってもしかしてあの『こずえさん』か!」
五十嵐「お前、あの八百屋小町にほれられているというのか!?」

どうやら『こずえさん』という八百屋の娘さんは、
あかつき野球部にも知られるほどの有名な美人であるらしい。

九十九「かっかっか。もてる男はツライわー」
四条「(羨ましいなァ)」
三本松「あのこずえさんが九十九に……そんなバカなー!」

ウブな三本松は心底から悔しがる。みんなガハハと大笑い。
いったい練習はいつ再開する気なのかという疑問を誰も抱いていない。
と、そんな彼らを遠くグラウンド内のブルペンからじっと見ている眼がある。
さわいでいるみんなもだんだんそれに気づく。
あかつきの2年生エース、猪狩守の冷たいさげすみの視線に。

「「「「(ゲッ……猪狩じゃないか)」」」」
猪狩「フッ」

先輩たちの気まずい視線を浴びた猪狩、彼らを鼻で笑って目をきり、投球練習をしはじめた。
あんなだらしない先輩どもには期待しない、戦力的にもボクひとりで十分だというふうである。

「「「「ム、ムカつく……!」」」」
二宮「あの野郎ー。先輩を見下しやがって」
四条「賭けの話はあとだ。実戦守備の練習をするぞー!」
「「「「オオー!!」」」」

四条の鶴の一声でみんな元気よく起きあがる。
後輩の猪狩になめられてたまるかという気持ちが背中をおして、
一歩動くだけでも暑い6月の空の下、彼らはいつもどおりの
尋常ならざる練習を行うため早足でグラウンドへ向かっていった。
メンテ
スイカこわい?(下) ( No.2 )
日時: 2005/04/29 13:09
名前: カリート

練習後、寮で夕飯を食べ終わったころには時刻は8時を過ぎていた。
九十九がもらってきたスイカまるまる一玉が八嶋と九十九の部屋(彼らは相部屋である)の
冷蔵庫で冷やされている。八嶋は今、五十嵐とともに室内練習場で特打ちを行っている。

九十九「そろそろ帰ってくるころちゃうか」
二宮「ふつうに美味そうなスイカだな。食いてえ」
六本木「まあ八嶋の反応を見てからにしようよ」

粗末だが清潔な6畳一間。玄関手前のドアを引けばトイレとバスがある。
西側の壁に二段ベッドが置かれてその対面にテレビデオ、その左横に冷蔵庫、
右横にはピンク色した三段の本棚。
『真!打撃教室』『走塁のススメ』『対そよ風高校』『対パワフル高校』『古今東西漫才大全集』
こんなビデオが乱雑に立てかけられている。
その周囲の壁には九十九自身の打撃フォームの連続写真と、『電光石火』『心頭滅却』そして
なぜか『阿畑必殺!』と筆ペンで書かれた色紙3枚が鋲で止められている。
前までテレビとベッドの間には机があったのだが、勉強などせぬ八嶋と九十九だから
ベッドの脇に追いやってしまっている。
部屋のすみにはバットが2本。木製と金属製。
南に狭いベランダがあり、洗濯物はここに干される。
ベランダからは青臭い葉と土の匂いのする鬱蒼とした松の木々の斜面があり、
その向こうを見上げればうす緑色のネットをはった彼らのグラウンドをのぞくことができる。

七井「ミーは部屋に来るの初めてダ」
三本松「ワシもだ。九十九と八嶋にしては意外と奇麗にしているな」

ひとつの部屋にレギュラーメンバーが集まるというのはじつはめずらしい。
仲良く和気あいあいを理想とするような人間が
強豪あかつきのレギュラーをはれるはずもない。全員がライバルと言ってよかった。
いつ誰がレギュラーの座を狙っているかも知れない、そう思うとこれまでは
真実仲良く話すことなどなかった。彼らは相互に作用して自分を高めてきた。
そしてスタメンの地位をモノにした今、彼らはようやく高校生らしい心で
バカなやり取りもかわすようになったのである。

四条「おッ。足音が聞こえるぞ」

そう言ったすぐあと、ドアが勢いよく開いて小さな八嶋が部屋に飛びこんだ。

八嶋「ただいまー!わあ、みんな来てたのか。くつろいでいってよ」
五十嵐「ははは。俺もお邪魔させてもらうよ」

あとから五十嵐も入ってくる。
八嶋は自分のベッドにダイブしてあお向けに寝そべっている。
遊びつかれた小学生そのもので、みんなつい笑ってしまう。

六本木「あはは。ホント中はいつまでたっても子供のままだね」

八嶋も恥ずかしそうに笑う。
九十九は八嶋に冷蔵庫にあるスポーツドリンクでも飲むかと聞いた。
もちろんスイカとご対面させるためのワナである。
八嶋はうれしそうに「うん!」と言う。そうして起きあがり冷蔵庫の方へ向かう。

ガチャ

冷蔵庫を開けた八嶋の背中をみんな見守る。賭けがスタートしたわけだ。
あれ……?
なにか反応があるかと思いきや、八嶋は動きもしない。一同不審に思う。

二宮「おい中。どうしたんだ?」

そう声をかけた瞬間、八嶋は猛烈な勢いで部屋のそとに飛び出てしまった。

八嶋「うわーー!みんなのバカーー!!」

かなり遠くから泣き叫ぶののしりのセリフが聞こえてきた。

九十九「あらら。ホンマに嫌いやったんやなあ」
二宮「俺たちの勝ちだな。けど中には悪いことしちまったよ」
六本木「だけどまずいよ。あの様子じゃ中、帰ってくるかなァ」
四条「なにがまずいんだい?」
三本松「寮長の百瀬さんに八嶋がいないってことがバレたら面倒なことになる」

百瀬遼太郎。
部員言うところの『鬼のモモさん』である。
年は32、33才。
ボウズ頭で人相最悪の男だが性格は豪放磊落というふうで部員たちの良い兄貴分である。が、

五十嵐「そう。良い人なんだけど、10時以降寮内にいないとブチギレるんだ」
七井「アレは絶対ニジュウジンカクってやつだヨ」
二宮「みんな手分けして探すぞ!9時に並木公園の噴水に集合だ」

一同は3組に分かれて探すことにした。
あかつき校内、繁華街、行きつけのバッティングセンター。
八嶋のいそうな玩具店やスポーツショップなどを当たった。
昼のほとぼりはまだ残っていて、9時に公園に集合したときにはみんな汗みずくであった。

四条「はあはあ……。どうだった?」
二宮「いねーな。まったくどこいっちまったんだ」
六本木「チンピラに絡まれそうになったよ。瑞穂のひと睨みで引き下がったけど」
九十九「あいつらもさすがに死にたくはないもんな」
二宮「ケッ。腰抜けどもめ。それよりどうした三本松?」
三本松「…………」
七井「さっき『オトナのお姉さん』にすり寄られて悩殺されちゃったんだヨ」
四条「……鼻血が出てる。というか五十嵐!何だその紙袋は!?」
五十嵐「いや、これは。すまん。欲しかったサプリメントが半額だったんだよー」
九十九「こらアカンわ……」

まだ青いイチョウの並木がつづく公園の噴水の脇で、みんな考えこんだ。
噴水の中央には片足立ちで不安定な姿勢の天使がハトとたわむれている銅像が置かれている。
時たま行なうランニングコースの終着点としてあかつきの部員たちにはなじみが深い。

二宮「なんとかならねーか四条?」
四条「ちょっと待ってくれ」

スポーツバッグからノート型パソコンを取り出してボードを叩きだした。

四条「八嶋のことだ。夜に歩きまわっても小学生と間違われて
補導されると自覚している。さっき交番に行ったが八嶋の情報はなかった。
行きつけの場所にしても夜に訪れるのは学校に通報される危険がある。
そうなると場所はひとつだ」

チッ!四条はエンターキーを力強く押した。そこには『神社』と表示されてある。

六本木「なるほどね。たしかに八嶋がいそうだ」
七井「さすがはキャプテンだネ」
九十九「しっかしもっと早ように言わんかい。汗ダクやわ」
二宮「よし!神社に向かうぞ!」
「「「「オオー!」」」」


10時まで時間も残り少ない。一同、神社へ急いだ。
パワフル高校の近くにある緑に囲まれた高台の神社。
100段近くある階段をみんな練習以上の早さでのぼりきった。

五十嵐「よっしゃ。一位っと」
四条「さすがは五十嵐。早かったな」

最初に鳥居をくぐったのは基礎練習が得意の五十嵐。つづいて四条。
それからぞくぞくとあがって来る。七井は三本松を引っぱりながらのぼるという重労働であった。

九十九「はあはあ。しんどー。なんや走ってばっかりやな」
三本松「ハッ。ここはどこだ?ワイはいったい何を」
七井「やっと気がついたネ、三本松」
六本木「あっ。堂の前で何か動いているよ。暗くてよく見えないけど」
二宮「中に違えねー。違ったらコロス」

境内には電灯がひとつ備え付けられているだけである。暗闇から笑い声が聞こえる。

「アハハ。お前けっこうやるな!いい代走屋になれるよ」

神社の石畳の上には捨て犬と遊んでいる八嶋の姿があった。
走り回る犬をそれ以上の速さで追いかけてつかまえる。
「ワウ……」長いこと遊んでいたのか八嶋の腕の中にいる犬はもう息絶えだえである。

八嶋「あ、みんな」

八嶋は一同に気づいて犬をはなす。すると犬は縁の下にもぐっていってしまう。

四条「八嶋、ゴメンな。スイカが怖いなんてみんな冗談だと思って信じられなかったんだ」

八嶋は少し涙目を上目づかいに一同をにらんでいる。

九十九「すまんかったチュン!このとおりや」

九十九はひざをついて謝った。
日頃誰にも下手に出ない二宮も「悪かったな」といって頭を下げた。

三本松「八嶋。もう帰ろう」
五十嵐「みんな疲れてるし、モモさんに怒られるのもイヤだろ?」
八嶋「……うん。オイラ、モモさん好きだからモモさんに怒られるのはイヤだ」
六本木「よし。じゃあ帰ろう。四条はどうする?」
四条「俺も寮まではついていくよ。百瀬さんに怒られたら俺にも責任があるし」

「よーし寮まで競争だ!」と八嶋はうって変わって元気そうに言い、
すぐに快速を飛ばして階段を下りていった。

七井「アタルはいつでも元気いっぱいだネ」

やれやれ。みんな安堵の微笑を顔に浮かべて、寮へと足を向けた。
並んで走りながらこんな会話をする。

九十九「賭けなんかせんかったら良かったで」
三本松「そうだな。賭けのせいでこんなに大事になったのだから」
二宮「おいおい、そうはいかねーぜ。約束は守ってもらおう」
六本木「ふふ。厳しいなァ瑞穂は」
五十嵐「俺もゆずらないぞ。なんてったってスパイクだからな」


先に帰ってしまった八嶋以外の一同、寮に戻ってみると時刻は9時45分だった。
間にあったことに胸を撫で下ろす。
と、そのときふいに寮の玄関付近にある寮長室のドアが開いた。
百瀬が出てきたのである。これには一同凍結寸前まですくみ上がる。

百瀬「お前ら今までどこほっつき歩いてたんだ」
五十嵐「すすすいませんモモさん。だけど、まだ、10時回ってないッすよね」

五十嵐が冷や汗をたらして弁解する。
「ああん」と、ガラガラでドスの聞いた声の百瀬は、普通でも怖い顔をさらに怖くする。
しかし次の瞬間、百瀬は笑顔になってこんなことを言う。

百瀬「ビビらせて悪かった。大丈夫、セーフだよ。毎日野球漬けじゃあ辛いだろう。
たまには遊ぶのも結構だ。ただもうちょっと早く帰ってこいよな!」
九十九「モモさん勘弁して下さいよー。死ぬかと思ったわ」
百瀬「がっはっは!ちょっとお前ら寮長室に来い。お!四条もいるなんて珍しいな。
ひい、ふう、みい……全員で7人か、ちょうどいい。良いモン食わせてやるぞ」
二宮「マジっすか!モモさんにしちゃ太っ腹だね。競馬でも当てたのかい?」
百瀬「ヘヘッ!あい変わらず口のへらねー野郎だなァ二宮は」

寮長室から何か物音がする。7人は百瀬に誘われて、キッチンがある以外は
部員の部屋と同じ造りになっている寮長室にあがった。
テーブルには8等分にされたスイカがあった。
そして床に座って夢中でスイカを食べているのは八嶋中である。

八嶋「あ、みんな来たのか。スイカ、モモさんに頼んで切ってもらったんだ」
百瀬「おいしいか中?」
八嶋「うん!甘くて美味いよ」

この光景に一同あ然とする。八嶋はいぶかしげな顔をしている7人に向かって言う。

八嶋「みんなどうしたんだ。変な顔して」
九十九「……チュン。お前スイカが怖いんやなかったんか?」
八嶋「ああ、そのことか」

ティッシュで口をふく八嶋の、次の言葉に一同注目している。
「まさか!」と思った。
いわゆる「まんじゅうこわい」作戦にまんまとはめられたのではないか、と。
しかしそうではなかった。八嶋は困った顔をして説明した。

八嶋「昔、テレビ見てたときにスイカを的にして射撃練習しているシーンがあったんだ。
なんでスイカなのかってテレビの中の人が聞くと人の頭を撃ったときと似てるからだって。
それ聞いてオイラ、まるまる一玉のスイカが怖くなっちゃったんだよ」
三本松「しかし今食ってるじゃないか。ワシは混乱してきた」
八嶋「だけど切ってあるスイカは平気なんだ。むしろ大好物だよ!」
二宮「何だよそりゃあ。怖いけど大好物って」
七井「ということハ……」
四条「ということは――まさか、九十九、賭けは無効ってことになるのか?」
九十九「(ニヤッ)悔しいやろうけど、そうなるわなァ。
あああ!まったくもって今日という一日は何やったんやー(笑)」

九十九は疲れ果てたというふうに崩れ落ちた。
それを見て賭けで負けたと思っていたほかの3人は笑い出した。
つられて四条、二宮、五十嵐も笑うしかなかった。

百瀬「お前らもボーッとしてないでスイカ食べろ!でないと俺が食っちまうぞ!」


百瀬の号令でみんなスイカを食べはじめた。
ほどよい甘味があってみずみずしく水分に富んだスイカの果肉は
走り疲れた体にとても美味しかった。

九十九「うまいなあ。スイカなんて久しぶりや」
七井「デリシャスなウォーターメロンだネ」
六本木「ところでさあ五十嵐」
五十嵐「(シャクシャク)む、何だ?」
六本木「『夏の風物詩』の答えはいったいなんだったの?」
二宮「そうだ!ことの発端はそれだぜ!」
三本松「そういえば忘れていたな。どうなんだ五十嵐」

五十嵐は八嶋と目を合わせて笑う。そして百瀬に昼やったものと同じ質問をする。

五十嵐「モモさんなんだと思います。俺たちと密接なつながりがあることです」
百瀬「おーわかったぜ!そりゃあアレだ。『夏の甲子園』だろう!」
八嶋「当たりだよモモさん!すぐわかるなんて凄いなァ」
百瀬「ホントか?あてっずぽうに言ったら当たっちまったよ。なっはっは!」
四条「ははは!そうか甲子園か。なんでわからなかったのか不思議なくらいだ」

みんな納得して朗らかに笑った。しかし二宮はひとり不機嫌そうでいる。

二宮「おい!そりゃなんか違うんじゃねーか」
五十嵐「ん?じゃあ二宮は何だっていうんだよ」
二宮「夏の風物詩は『夏の甲子園であかつきが全国制覇』だろーが!!」

真顔で怒鳴る二宮。それが面白くて一同爆笑する。
が、ちょっとすると笑いはおさまってみんな真剣な顔つきになる。
それはただの高校生の表情ではない。
常勝あかつきのレギュラーをはる男たちの凛々しい表情である。
四条が静かに口をひらく。

四条「笑いごとじゃない。二宮の言うとおりだ」
六本木「うん。一度だって負けたくない」
五十嵐「俺も問題の答えを書きかえんといかんなァ」
三本松「打倒帝王実業」
七井「リベンジってやつネ」
八嶋「……もうベスト何とかはゴメンだぞ」
九十九「今年こそ深紅の旗を持って帰ったる」

口々に全国制覇への意志を言いあった。
しばらく無言がつづく。
静かな闘志を燃やしつつスイカを食べ終わった8人は、
誰とはいわず円陣を組んであかつき大附属伝統のかけ声を行なった。

「ウオーッ!」「しゃー!」「よーしッ!」「絶対負けねー!」「全国制覇じゃー!」

そして寮長室には男たちの誇り高い雄たけびが響く。

百瀬「まったくもってうるせーヤツらだなァ」

言葉とは裏腹に、百瀬のまなざしは彼らを見まもり応援する、優しい光を称えていた。


空には栄光のようなオレンジ色の月が浮かんでいる。
――ワオーン!生温い夜を超えて、神社の捨て犬も彼らと呼応するように鳴いていた。

じきに柔らかな雨で満たされた6月も終わる。
彼らの忘れられない夏の風物詩は、もうすぐそこにまで来ているのであった。



 (了)
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