≪S☆J番外編 〜地獄の休暇と6つの塔〜≫


第5章

「・・・じゃあ、ヨウさんもMAXさんには会ってないんですか?」

アフロが言った。
彼はソファーからは立ち、裏側の背もたれのほうに寄りかかっていた。

「そうだ。 恥ずかしい話、少し迷っちまってな。 
もしMAXさんがいても、話しかける余裕は無かったよ」

ヨウは少し照れながら言った。
彼は、部屋に入ってすぐ左のベッドに寝そべっている。
時間は、ノーザストステーションで爆発事件が起こる、10分ほど前。
ヨウはすでに、アフロのいる1013号室に到着していた。
2人はまだ戻らないMAXについて、少し心配して話していた。
と、ヨウは仰向けのまま、大きく手を開いた。
ベッドからはみ出た左手に、何かがあたる。

「・・・ん? おいアフロ、何だコレは?」

彼の左手にあたったのは、さっきの小包である。
ヨウはその小包をつかむと、体を起こして、それを少し眺めた。

「ああ・・・なんかさっき、ホテルの人が持ってきてくれたんですよ。
 送り主はわからなかったそうですけど、たぶんMAXさん宛ての何かの部品とかでしょう」

アフロが説明すると、ヨウは少し笑った。

「ふぅ〜ん・・・」

(ガッ)

すると何を思ったか、その赤い包装紙をはがそうと、端をつかんだ。

「あっ、ちょっと! あとでMAXさんに怒られても知りませんよ?!(まあ本当はMAXさん宛てだとも限らないんだけど)」

アフロは慌ててヨウの方へ行った。

(ガリッ ガリッ)

しかし、なかなか剥がれない。
そのうえ、下にももう一枚、包装紙が見える。

「あ゙ーめんどくさいっ!!」

(ビリビリビリビリッ!!)

「ああっ! もう、まったくこの人は・・・」

意外とぴっちりした包装に手こずったヨウは、それを強引に破いてしまった。

(ピラッ・・・)

「ん?」

ヨウが破いた包装紙の中から、一枚の紙きれが落ちてきた。
どうやら何か書いてあるようで、アフロはそれを拾って読み上げた。

「なになに・・・?」



『ジャスティスの諸君、君達にささやかだが贈り物だ。
 よければ駅の次に、吹き飛んでくれたまえ。』




「の゙わ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!?」

突然、横からヨウの悲鳴が聞こえた。
その声にアフロは、何事かと振り向いた。

「どうしたヨウさん!?」

アフロの質問に硬直していたヨウは、そのままぎこちない動作で、小包、いや、小さな木箱の中を見せた。
それは複雑な機械のように見える。 やはり何かのパーツか・・・?
しかし、どんなパーツでも、さすがにデジタル時計はついていない。
しかもその時計の数字は、増えるのではなく、1秒ごとに減っている。



「ば・・・爆弾!!!?」



分厚く包装され、木箱に入ったそれは、時限爆弾であった。

(ピッ・・・ピッ・・・)

機械音が、室内に響く。
やけにしっかりと包まれていた理由は、きっとこのカウント音を隠すためだったのだろう。

「オイオイオイオイ!!! MAXさんはこんなもんまでバイクにつける気か!!?」

「そんなワケないでしょ!! それより、早く解除を!!! ホラ、MAXさ・・・」

と、2人は少しの間、固まった。
そう―――MAXは、いない。
と、いうことは、爆弾を止めることのできる人間は、いない。
さらに慌てる2人。

「どうしよう、どうしよう!!!」

これはヨウだ。

「あーーーもう!!! 何かいい考えは・・・」

と、アフロは、窓の外を見た。
綺麗な夕日は、もうほとんど沈みきっている。
また、夕焼けに染まる赤い海も、美しい。
―――海。

「・・・そうだっ!! その手があった!!!」

「えっ!! 何か思いついたのか!?」

アフロはひらめいた様に、ヨウに目を戻した。
・・・そう。
彼は、爆弾を海へ放り投げ、周囲への被害のないように処理するという方法を思い付いたのだ。
ホテルから海へは、彼の足なら30分程度で辿り着くことができるだろう。
その後は、今は方法は浮かばないが、とにかく時限爆弾をなるべく沖の方で爆発させるのだ。

「ヨウさん、時間はあとどれくらいですか?」

アフロは、希望に満ちた顔で聞いた

「あ、ああ・・・えーと、16分ちょうど・・・ってえ゙え゙!!?」

「なっ!!?」

もちろん、彼の考えはとても良かった。
しかし、時間が足りなければ意味がない。
赤いランプで表示されたカウントを見て、ヨウは目が飛び出そうになった。
さっきは希望を感じていたアフロも、悔しそうにうつむいた。

「くっ・・・間に合わないっ」

もうダメか。
彼は諦めかけた。
そのことを無言でヨウに伝えようと、アフロは彼の方を見た。
もし仮に、ものすごいスピードで走っていける人物がいたなら、


とたんに輝きを取り戻す、アフロの顔。

「ヨウさん・・・俺にいい考えがあります!!」

彼はヨウの耳に、ひそひそ声で話し始めた。





【タワーヒルズ本館1F】

(ざわざわざわ・・・)

「うぉぉぉおおーーーっ!!! すっげーーーっ!!!」

MAXは、想像以上に豪華で、とても広い会場を見て、驚嘆した。
大きなテーブルがいくつも並べられ、2階の突出したバルコニーには、手すりなどが金色に彩られた、赤い大きな椅子が置かれている。
華やかなドレスを着た女性や、スーツでめかしこんだジェントルマン達が大勢、そこらじゅうで何か話している。
周囲を見渡せば、外国人も結構いる。
なんとなくテレビで見た事があるような政治家も、何人かいるようだ。

「それはもう、今回のペーティーは、イジスティア大陸
最大級のショッピングモール、ノーザンタワーヒルズのオープン記念式典と、
 グランドール財閥結成から10周年記念式典を兼ねたものですから、様々な国、企業の方々、そして政界からの参加者も大勢集まっていますからね!!」

「へーそうなんですかー・・・(じゅる・・・)」

MAXの隣で、ラスクが誇らしげに語った。
しかし、MAXにはそんな言葉は届いていない様子で、テーブルの上にところせましと並べられた料理を見て、よだれをたらしている。
ちなみに先程、MAXが「豪華」だと驚いたのも、ディナーの豪華さ、という意味でである。

※イジスティア大陸・・・実際の世界で言うと、東アジアのあたりにある大陸。ちなみに、西アジアと欧州のあたりはウェジスティア大陸と呼ばれ、対になる存在。

「それではMAXさん」

「うへへー・・・あっ、え? あ、ハイなんでしょう?」

MAXは我に返った。
口元には、まだよだれがついている。

「奥に特別席を手配してありますので、そちらに向かいましょう」

微笑みかけてそう言うと、ラスクは中央の通路を、奥に向かって歩いていった。

「えっ・・・特別席? いや〜俺なんかもう服装とか場違いなのに、いいのかな〜なんて それじゃ、お言葉に甘えて・・・」

MAXは、ニヤニヤしながらラスクの後についていった。
彼の頭の中には、特別席に見合った、特別に豪華な料理が浮かんでいた。





「まったく俺って、いっつもこんな役ばっかだな・・・」

(ゴオオオォォォォ)

ヨウは、走った。
左手に爆弾を抱え、走った。

彼のスピードはもう、人の域を超えている。
全力で走るその姿を、普通の人間では、目で追うことはおろか見ることすらままならないだろう。
それは既に、吹き抜ける一迅の風であった。
踏切を飛び越え、観光客の人ごみをすり抜け―――走った。

「この分じゃ、ギリギリ間に合うか間に合わないか・・・」

爆弾のカウントは、あと7分26秒を示している。

「まったくアフロのやつめ、何を言い出すかと思えば・・・『ヨウさん、海に捨ててきて下さい』だと?
 たしかに海までは行けるが・・・どうやって沖まで運べばいいんだよ!!!」

(ゴオオオオォォォォォ)

ヨウはブツブツ文句を言いいながらも、走り続けた。
だんだんと、いや彼の場合「すぐに」と言うべきか、海が見えてきた。
そこで彼の目に留まったのは―――

「あれは・・・フェリー乗り場!!」

そう、彼の目に留まったのは、観光用のフェリー乗り場だ。
自動操縦のフェリーに爆弾を乗せ、沖まで運んで爆発させればいい。
海が見えてから、あっという間に、彼はそこに到着した。
残り時間は、あと6分12秒。
しかし入り口のシャッターは閉まり、人の気配はない。
夕日も沈もうとしている今、ナイトクルージングまでは、フェリーは出ないのだ。

(バンバンバン!!)

「(ゼィ、ゼィ、)すいません・・・(ゲホッ) 誰か・・・誰かいませんか!!!」

ホテルから、普通なら30分はかかる道を5分程度で走ってきた彼の体力は、もう限界だった。
入り口の建物を飛び越える気力も、もうない。
彼は膝に手をつきながらも、シャッターを叩き、叫び続けた。

(バンバンバン!!!)

「誰か、誰かいませんか!!(ゲホッ) 時間が無いんです!!!」

(ガラガラガラッ・・・)

すると突然、シャッターが開いたので、ヨウは叩くのをやめた。

「うるせーなぁ・・・ ったくなんなんだよ こっちは休憩中だってのに!!」

すると中から、30代前後の男が、頭をかきながら現れた。
薄緑色の作業服を着て、首にタオルを巻いたその男はおそらく、ここの船の管理人であろう。

「あの・・・、船を・・・貸してください! っていうかください!!」

「あ゙あ゙っ!!? んなことできるわけねぇだろ!! こっちも商売なんだよ!!!」

ヨウは必死に訴えかけたが、どうも受け入れようとはしてくれない。
そこでヨウは、左手に持っていたそれを、作業服の男に掲げて見せた。

(ピッ・・・ピッ・・・)

「まさか・・・ば、ば、<B>爆弾!!?</B>」

残り時間5分の表示に、作業服の男は仰天し、ポカンと口を開けて硬直した。



ヨウが簡潔に説明すると、彼は急いで小型のクルージングボートを用意してくれた。
本当はエンジン付きのゴムボートを用意したかったが、取りに行く時間が無かったため、仕方なくそれにしたのだ。
このクルージングボートは、もともと港につないであり、すぐに出せるという理由からも選ばれた。

(ブロロロロロロロ)

エンジン音がして、ボートから作業服の男が出てきた。

「オートで動くようにしてきたぜ! さあ、早く爆弾を!!」

男が手で合図すると、ヨウは急いでボートに爆弾を置いてきた。
彼がボートから出る前に見たのは、2分ちょうどのカウント。
ヨウがボートから飛び降りると、作業服の男は慌ててロープをほどいた。

(ブロロロロロロロロ・・・・・)

男がロープをほどくと、ボートは沖に向かって走り始めた。

「ふぅー・・・これでひとまず安心だ」

ヨウは走りゆくボートを眺め、ほっとした。

「まったくだ・・・ったく、他人事だと思ってたら、ホンモノをお目にかかることになるたぁ」

そう言って作業服の男は振り返ると、右の方を指差した。

「他人事?」

ヨウは何かと思い、男が指差した方を見た。
すると、どこからかはよくわからないが、黒煙がもうもうと上がっているではないか。

「えっ?! まさか、他にも爆発事件が!!?」

ヨウは驚いて振り返り、男に質問した。

「ああ・・・俺もよくは知らないが、お前さんが飛び込んでくる直前に、テレビの臨時ニュースでやってたんだ。
 なんでも、駅のホームに仕掛けられた爆弾が、電車が入ってくると同時に爆発したらしい」

おそらく、テレビは休憩室で見ていたのだろう。
男は、被害の状況や死傷者はまだわからないらしい、とも説明した。

「そうか・・・そんなことが・・・」

事件が起こったのはヨウが走っていた時、という事になる。
しかしヨウは自分のことに集中していたため、駅からの爆音と煙には気がつかなかったのだ。

(ズゥゥゥゥゥゥン・・・)

「おわっ!?」

沖の方で、水しぶきがと煙が同時に上がった。
駅の煙に気をとられていた作業服の男は、突然の爆発に、思わず前につんのめった。
爆弾を乗せたボートは、真ん中で半分に割れ、少しずつ沈んでいった。

「(今回の件・・・もしかしたら同一犯かもしれない。 駅といいホテルといい、まさか・・・ジャスティスを狙っての犯行か?)」

ヨウはホテルから出る前に見た、紙きれの内容を思い出していた。
確かに、どちらの場所も、(駅の方は時間的にもズレるが)3人が必ず行くことになる場所であった。
それに、メッセージからも、少なくともジャスティスを意識しての犯行であることは確かだ。

と、作業服の男は沈んでゆくボートを眺め終わると、振り返って言った。

「ところであんた・・・こんな時に難だが、ボートの弁償代は・・・払ってもらえるか?」

男は少し心配げに、ヨウを見た。
用意周到、彼が差し出した電卓には、220,000L(ランド)、と表示されている。

「・・・ああ、大丈夫です。 今すぐには無理ですけど、えーと・・・」

ヨウは少し考えてから、笑って答えた。

「請求書を『アロハー』宛てに、お願いします」