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≪S☆J番外編 〜地獄の休暇と6つの塔〜≫
第3章
エリー「あ、このハシゴ上れば着きますよ。」
ヨウ「は、はぁ・・・。」
2人は明らかに地下水路といった感じの道(厳密には道ではない)を通っていた。
というより、ここは確実に地下水路である。
ヨウはなんでアナウンス係がこんな場所を知ってるんだと疑問に思ったが、
とりあえず一人で何ができるわけでもないのでついてきてしまった。
確かに人ごみの地上を行くよりは早いルートかもしれないのだが。
そんなことを考えているうちに、どうやら出口に着いたらしい。
ヨウ「しかし・・・本当に早いね。」
地下水路に入ってからまだ5分程度しか経っていない。
もう到着したというのだから地上を通るよりはやはり良かったのかもしれない。
エリー「ま、とりあえず出ましょう。」
彼女はそう言うと、ヨウをハシゴの方へうながした。
ヨウ「・・・えっ? 俺が先?」
ここまで先に立って案内してくれていたのにここにきてどうして自分が先なんだ、
と疑問の表情を浮かべた。
エリー「そ、そそ、そんなの当たり前じゃないですかッ!!」
彼女は急に慌ててそう言うと、スカートをおさえて顔を赤らめた。
ヨウ「あっ! え゙っ?! いや俺は、そ、そんなつもりで言ったんじゃ・・・」
その意味を悟ったヨウは、両手を振りながら全面否定した。
落ち着きを取り戻すと、
ヨウ「・・・わかりました。 先に行かせていただきます。」
そう言ってハシゴに向かい、上り始めた。
エリー「・・・すんません。」
ヨウ「うわっ!」
地上に出たとたん、ヨウは思わず目をふさいでしまった。
空は多少くもっているが、ずっと暗い所にいたのだから仕方ない。
目が慣れてから周りを見ると、どうやら大通りの脇に出たらしい。
左手には電車の線路がある。
ヨウ「あ・・・ホントに・・・出れた。 ああ・・・ひとまず良かった。 ありがとう。」
服をはたきながらヨウが言った。
エリー「いえいえ、別に大したことしたわけじゃないっすから。」
そしてヨウはここで初めて、気になっていたことを質問してみた。
ヨウ「なんでアナウンス係のキミがこんな通路知ってたんだい?」
ヨウはマンホールを指差しながら言う。
エリー「あー。 この街は私のお父様の所有地で、帝王学の一貫っつーワケで色んな道を覚えさせられ・・・」
ヨウ「・・・おとうさま? しょゆうち? ていおうがく?」
と、突然彼女はいつものように慌てだした。
エリー「覚えさせられ・・・らりるれろーっと空が青いなぁ〜っ!!」
話題転換にしては無理矢理すぎる。
ヨウ「はぁ・・・要するに人には言えない事情ってワケだ。」
彼はその様子を察し、適当なセリフでまとめてあげた。
エリー「あ、ハイ、そ、そーゆーコトっすハハハ〜・・・ハァ。」
彼女は少し安心してため息をついた。
ヨウ「で、地上に出れたのはいいんだけどさ・・・」
ヨウは話を元に戻した。
ヨウ「・・・出てきたはずの駅が見当たらないんだけど。」
確かに、周りを見ても先ほどいたはずの駅が見当たらない。
エリー「あ、え、あ、道・・・まちがえたかな?」
ヨウ「ええっ!!?」
エリーがつかぬことを言い出すので、ヨウは逆にびっくりした。
ヨウ「間違えたって・・・ここはどこ?」
とりあえず場所くらいは把握しておきたいので、一応聞いてみた。
エリー「えーと・・・北側の大通りですね。 ホラ、あそこにホテルが。」
そう言って彼女が指差したのは、楕円形の建物が2つ連なっているホテル。
ホテル「双葉」であった。
ヨウ「え!? なんだよかった〜。 俺が泊まる予定のホテルで。
あそこで待ってればMAXさんたちも来てくれるだろうし。」
ヨウは心底ホッとした。
確かに、宿泊予定のホテルで待っていれば絶対に見つけてもらえるはずだ。
ヨウ「ありがとう。 ここまででいいよ。 じゃ、俺はこれで。」
エリー「あ、はい・・・。 すんませんでした。」
彼女は結果オーライとはいえ道を間違えてしまったことを謝った。
ヨウ「いいっていいって。 それじゃ!」
そう言って彼はホテルの方に走っていこうとした。
だが、そこで思い出したかのように急に立ち止まり、振り返って言った。
ヨウ「そうそう、名前をまだ言ってなかった。 俺は『ヨウ』。 3日間ここにいるから、また会えるといいね!」
ヨウはそう言い残すと、ホテルの方に消えていった。
通りには、エリー1人だけ残された。
エリー「ヨウさん・・・か。」
(Trrrrr・・・Trrrrr・・・)
と、不意に電話の音が鳴った。
エリーはポケットから携帯電話を取り出した。
この時代には珍しい、3D会話機能無しのオールドタイプである。
珍しいだけ、オークションなどでかなりの金額をつぎ込まないと手に入らないようなシロモノだ。
(ピッ)
エリー「エリシアです。 ・・・お父様? ・・・はい・・・すみません。・・・はい。 わかりました。
それでは、すぐにそちらに向かいます・・・。(ピッ)」
エリーは電話を切ると、少し笑ってつぶやいた。
エリー「こ〜りゃお説教ですなっ・・・。」
アフロ「ったくなんで俺ばっかいつもこんな目に・・・。」
ブツブツ文句を言いながら歩いているアフロ。
本当ならヨウとカフェで合流したあと3人でホテルにチェックイン、楽しみはそこからという予定だった。
その予定をMAXがブチ壊しにしたため、リュックを背負ったまま両手にカバン、頭にも1つカバンをかけている今のアフロがいるのだ。
常人なら絶対に歩けない状態だが、ジャスティスでの厳しい訓練を経験していた彼には大したこともない様子である。
アフロ「はぁー・・・まったく。 ・・・お、あのホテルだな。」
愚痴を言っている間に、なんとかホテルが見えてきた。
楕円形の建物が2つ、少しずれた形で連なっている。
見たところ、2つの建物の高さはタワーヒルズよりもある。
ホテルが見えて少し早足になったアフロは、あっという間に玄関の前に到着した。
アフロ「ここ・・・だな・・・やっと・・・ついた・・・ゼィ・・・ゼィ・・・。(ドサッ)」
アフロはとりあえず荷物を地面に置いた。
ジャスティス本部で訓練していたとはいえ流石に疲れたらしい。
普通の人なら運ぶこともできないであろう量なのだから、そこはやはりジャスティス隊員ということだろう。
アフロ「ええっと・・・ホテル『双葉』? なんだ旅館じゃあるまいし・・・。」
深呼吸をして息をととのえたアフロは、そう言って荷物を持ち直し、ホテルに入っていった。
【タワーヒルズ本館2F】
ノーザンタワーヒルズの本館では、何かイベントが始まるのか。
赤いじゅうたんやシャンデリアで飾られた広間の上階に、スピーチ用のマイクが設置されている。
その奥に一人、年配の男が豪華な椅子に腰掛けている。
「まったく、今日は大事な日だというのに。」
――――――この男こそ、グランドール財閥をまとめ、取り仕切っている「マルビス=グランドール」。
少し白髪の混じったオールバックヘアーに少し小太りの体型、豪華なスーツや革グツが威厳を感じさせる。
持っていたダイヤル式の電話を椅子の横に立っていた執事に渡し、ぶつぶつ文句を言っている。
この時代にダイヤル式電話というのも貴重である。
マルビス「いつまでたっても子供だ。 もう少し財閥の将来を担う者としての自覚を持ってほしいものだ。
お前もそう思わないか? ナイダー。」
太い声で、何やら文句を言っている。
本気で怒ると恐そうな声だ。
ナイダーというのは、先ほど電話を預かった執事。
細目のおじいさんで、優しい印象がある。
ナイダー「まあまあ、お嬢様も遊び盛りのお年頃です。 少しぐらいの勝手には目をつぶってさしあげましょうよ。」
見た目どおり優しいほがらかな声で答えるナイダー。
本人にその気は無いのだろうが、先程からずっと笑顔で立っている。
マルビス「ううむ・・・しかしだな・・・。 これでもう何度目になる?
やはり今度ばかりは厳しく言って聞かせんと・・・。」
彼はみけんにシワをよせた。
今話していることは、彼の悩みのタネらしい。
ナイダー「だんな様。」
突然、ナイダーが声をかけた。
マルビス「む・・・。」
ナイダー「確かにここ最近のお嬢様は少し勝手すぎる行動が目立つと私も思います。
しかし、昔の事を思えば、現在はそれでよろしいのではないでしょうか?
あの忌まわしい事件も忘れ、今のお嬢様が楽しいならそれでいいのではないでしょうか?」
先程とは一変、厳しい口調のナイダーはそう言った。
想像以上のつらい過去があることが、彼の言葉でわかる。
マルビス「うむ・・・そうだな。 しかし、そうは言ってもやはり一人で行動させるのは・・・」
マルビスがそう言いかけたのに対し、ナイダーは素早く答えた。
ナイダー「その点はぬかりなく。 万一に備えて特殊警備隊を待機させております。
怪しい者からの接触があれば、彼らが動いてくれます。
お嬢様がこの街のどこにいようとも安全です。
先程だんな様が電話でご連絡しましたし、すでに私が下の者を捜索に向かわせました。」
対策は万全、というところだろうか。
その点はさすが財閥の執事である。
マルビス「そうか・・・それなら安心だな。
しかし、帰ってきたら一言ぐらいは言わせてもらうぞ。
父親としての威厳というものがあるからな。 ハッハッハ!」
ナイダー「まあ、それはそうですね。 ハハハ・・・。」
そう言って、二人は笑い出した。
マルクスは財閥の頭と言っても、はじめの印象と違って案外気さくな人物のようだ。
しかし、ひとときの談笑がおさまると、やはり心配なのか娘の名前をそっとつぶやいた。
マルビス「エリシア―――――。」
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