VENUS’s SMILE

作者:飛鳥硝子


第一話


「先輩!私とつきあって下さい!」
「えぇっ!?」

放課後のグラウンド・・万年補欠の俺は今日一日の役目を終えた
野球道具たちを片付けていた・・・・そこで・・・・
なんで・・・??なんで俺に・・!?
俺なんかでいいのか?それともドッキリだったり・・・・いや
こんなかわいい子に告白されてるんだ・・・こんなことそうそうあるもんじゃない
うん・・・・・でも・・・

っていうか・・・・この子だれ・・・!?

「先輩・・・私はずっと見てました。試合に出られなくても
 練習とかを必死に頑張ってる先輩を」

「え・・・でも 俺なんかでいいんすか・・・?
 万年補欠の俺なんかでも・・・?」

「はい!私は先輩のことが好きなんです!」

俺がこんなこといわれるなんて・・・
女の子に全く縁のなかった俺が・・・・

その日から・・・・・・・俺に彼女ができた・・・・

そして 俺はなぜか レギュラーに選ばれた・・・・・

彼女こそ・・・俺の女神だったんだ――――――――


つづく



第二話



「4番、センター 羽輪くん」




アナウンスが場内に響き渡る・・・・
俺は・・・とんとん拍子で野球部のレギュラーに、そして4番になった。

(木村さん・・・見てくれてるかな・・・?)

木村さんが彼女になって1月・・・・
勉強にしても、部活にしても、奇妙なほどうまくいった。
そして彼女とも・・・・・

「がんばってこいよ」
「お前にかかってんだ!」

仲間たちからの声援・・・俺が野球部の主役・・・・!!

気分は最高、試合は5回うら、0−1 1、2塁

ここで一発がでれば逆転・・・・

木村さん・・・・!!俺に力を・・・・!!!

ピッチャーが投げた・・・・はやい・・・!!




鋭く変化した球は俺のバットをかわすようにして
キャッチャーミットに吸い込まれていった・・・・・

(くそ・・!!打たなきゃ・・・・俺が・・・)

ピッチャーが2球目を投げた・・・

外角低め・・・・ボール球だ・・・!!いや・・・・

そのとき俺は確かに・・・彼女の・・・木村さんの声が聞こえた・・・・

俺の五感は 木村さんでいっぱいになった・・・・
目の前には 女神の微笑が あふれていた・・・・







「おおおおおおおお!!!!」

刹那、目を覚ました俺は歓声のなか 立っていた・・・・・


俺の打った球は・・・・ライトスタンドに吸い込まれていった・・・・






つづく






第三話



「ねぇねぇ羽輪先輩!この歌手すごくいいんですよ!」
「へぇ〜 木村さんこの歌好きなんだぁ」
木村さんが好きな歌手というのは俺のあまり聞かない洋楽だったが
きっと好きになるだろうと思い買ってしまった。

そう、待ちに待った夏休みがやってきたのだ。
厳しい練習。甲子園。そしてなによりも木村さんとのデート。

今日は甲子園出場をかけた地区大会決勝を目前に、息抜きもかねて
木村さんとウィンドウショッピングを楽しんでいるわけである

「羽輪先輩 最近すごく調子いいですよね〜
 やっぱり地道にがんばってたのが実を結んだんですね〜」
はは・・うれしいことを言ってくれる。
でも俺の好調は木村さんのおかげなんだ・・・・

「俺の勝利の女神は木村さんだね」
我ながらくさいせりふである・・・・
「なんで?」
「だってさ・・・君と付き合い始めてから急に打てるようになったし・・・」

「そんな・・私はなにもしてないです!
 先輩が頑張ったからですよ!」

「あ・・ありがと 今度の試合も応援してね

 俺頑張っちゃうからさ」

「はい!」


翌日、最終調整のときも俺の調子は万全。
ただ・・・ただ 野球に打ち込んだ。


仲間たちも・・・目前にした甲子園に
胸を高鳴らせていた・・・・


その日の晩・・・俺は翌日の試合のせいで
ろくに寝れずに 朝を迎えた・・・・

甲子園は・・・・目の前だ・・・・



翌日、俺の頭は野球のことだけだった。

試合開始を告げるブザーが 俺の体を貫いた。


「木村さん・・・見ててくれ」



つづく








第四話


「ストラーイク!バッターアウッ!」

この回、俺に打順はまわってこなかった
すごい球だ・・・・1回裏 終わって3者凡退・・・・
相手チームは甲子園優勝経験もある強豪。

それに比べてこっちは全くの無名校である

また相手のエースは150キロ近くの速球を武器とする超高校生級。
結果は目に見えてる・・・でも・・・
2回表は俺たちの必死の守備でどうにか抑えきった・・・・が・・・・

そして2回表、先頭バッターは俺

木村さん・・・見ててくれよ・・!!

ピッチャーと目が合った・・・

なるほど 威圧感のある目だ・・・
でも やらせない!


初球! 速い・・・ど真ん中の球だった・・・・

でも・・俺は金縛りにあったかのように動けなかった・・・・

敵側の声援が高まる

2球目・・・俺は問答無用で振り切った・・・・

当たった――――――――――何も考えず全力で走った・・・・

しかし・・・ファウル。

みっともねぇ・・・くやしぃ・・・・

木村さん・・・・俺のこときらいになっちゃうんじゃ・・・




打たなきゃ


次の球こそ・・・・次の球で勝負を決めてやる・・・・・


ピッチャーの手に 白い悪魔が宿った

「来る!」



         つづく







第5話


願いはむなしく・・・球はキャッチャーミットに滑り込んだ。

「なんなんだよ・・・この球は・・・」

このままじゃだめだ・・・

試合は完全に投手戦になった
両チーム一歩も引かぬ好投。試合は延長にもつれ込んだ・・・

両ピッチャーとも限界に来ていた・・・・

打つなら今しかない・・・
延長12回表 敵の攻撃・・・


ここまで相手を4安打に抑えていた味方のピッチャーの疲労は
極度に達していた・・・・

勢いを失った球はキャッチャーミットの手前で落ちた

「フォアボール!」

ツーアウト 1塁

抑えてくれ・・まだやりたいんだ・・!!






初球だった・・・・・・・・

次の打者の打ち上げた球は俺の頭をまたいで 




カベの向こうへと消えていった・・・・











「ワァァァァァァァァ!!!」
敵側スタンドからは歓声が 味方スタンドからは悲鳴が 交じり合って
不協和音が球場全体に響き渡る・・・

なんなんだよ・・!こんなとこで終わっちゃうのか・・!?

甲子園行きたいのに・・・!あんなに練習したのに・・・

木村さん・・・!俺の勝利の女神なんだろ・・・!?

俺の願いをかなえてくれよ・・!

勝ちたいんだ・・・!どうしても!





でも・・・木村さんがこのとき もう俺の声が届かないところにいるなんて

俺はほんの少しも思っていなかった・・・・・


つづく











あらすじ
野球部でさえない補欠選手だった俺は突然1年生の木村さんに告白される
すると突然打てるようになり野球部でレギュラー、4番と躍進。
チームを引っ張ってとうとう甲子園地区予選最終戦決勝に出場。

木村さんという女神のおかげで―――ここまでこれた・・・・


VENUS’s SMILE  最終話

 
なんとしても勝ちたい・・延長12回裏。 敵のHRで2−0

ここで打たなきゃ・・ここで打てなきゃ終わりなんだ・・・・

でも俺は4番 この回の先頭打者は9番、 俺まで回ってくるかどうか・・・

神様――――――いや 木村さん!!

たのむ・・・俺を・・・このチームを勝たせてくれぇ!!




「羽輪 いるか?」

「監督! どうしました?」

「試合の邪魔だと思ってだまっていたんだが・・・

 お前の彼女だったか? 木村が・・・・ここに来る途中で事故にあった
 
 いま危険な状態らしい」

「木村さんが!?なんで・・!??!?!」

なに言ってんだ・・うそついてんだろ・・・監督。。。。

こんな大事なときに・・なにを・・?  

「うそじゃねえ ほんとだ  
俺の頭のなかは 白に染まった。
何も考えられなくなってきた・・・

吐きたい・・・


ちょっとまってよ。。。こんなときに


「この試合はもう負けたも同然だ。 いまから病院にいってやれ。

 お前を待ってるかも・・・」

そんな・・・・監督・・・!

いやだ 俺は・・・・・・・勝ちたい!


でも・・・・


そう思っているうちに 1番打者が打った・・・・

そして・・・2番も・・・ ワンアウト 1、2塁


もしかすると。。。俺に回ってくるか・・?
3番の奴は三振。 つまり・・・・・




俺に回ってきた・・・!!




こんなときに・・・木村さんのことで手が震える・・・


こんなんじゃ打てない・・・

やばい・・・   そんな時・・俺のアタマには 木村さんが好きだって言ってた


アノ曲が浮かんできた・・・・・・


「If I could be a bird. I 'll meet you . And I carry courage to you......」




あぁ・・・・俺に勇気を・・・!! 





木村さんの笑顔が目の前に浮かぶ・・・・・

俺はバッターボックスに入る・・・・
 


ピッチャーが振りかぶる・・・・・


時間がゆっくり流れる・・・・





球に木村さんの・・・・女神の微笑みが重なる・・・・





俺が力いっぱい打った球は まっすぐ太陽へと上がっていく・・・・
















そして・・・・・

ピッチャーの手の中に吸い込まれていった・・・・・・・・・










「ゲームセット!」








負けた・・・負けた・・・・・!








その瞬間。 俺はグランドの外へと飛び出した


追ってくる人なんか関係ない


俺の女神 木村さんに会いたいんだ




もう会えないなんてことないって  頭の中で反芻しながら。。。








赤信号で飛び出した俺の最後に見たものは 猛スピードで突っ込んでくる






トラックだった・・・・・・・・・・・・・
























秋が来た。。。。       



甲子園にいけなかった野球部のメンバーは次の甲子園に向けて

練習にはげんでいる・・・・



俺の穴をうめてくれそうだ。。。。



春がいまから楽しみになってくる





そして俺は・・・・ 









ずっと木村さんと一緒にいる・・・・・・・・・




永遠の時間のなかで・・・・









VENUS’s SMILE       おわり