第2章「最強バッテリー」
 
 突然のことにまたも、進は酷く驚いた。

進「じょ・・冗談は止めてくださいよ。僕はまだ1軍生活1日目なんですよ。
  しかも神童さんの球を何十球くらいしか受けてないんです!」
神童「ま、それが普通の意見だよね。でも、何か僕の中で直感的なもの・・
   なのかな?そういうものを感じたんだよ!」
進「いい加減にしてくださいよ!僕は・・僕には・・経験が足りません。」
神童「それじゃ、<試合を通して経験していけば良い>と思うよ♪」
  神童はニッコリと進に微笑んで見せた・・。
進「!!!!」 進はもう何がなんだか分からなくなってきた。
神童「じゃ〜、今から監督と話をして許可を取ってくるよ!!」
 
 そう言うと、神童は監督の所に走っていった。そして進からは神童が必死に
 監督と話をしている姿が見えた。

進「絶対あり得ないと思うんですけど・・・」
  進は神童の姿を見ながらそう呟いていた。そして何分か経ったその時だった。
  話のケリがついたのか、神童が進の方へクルリと向いた。
進「あっ・・・・・」
  神童は笑いながら手を頭の上で、大きく<○の形>にした!
進「・・・・・・・」
  進はただ、唖然としていた。まさかこうなるとは到底思えなかったのだから・・。
  神童が再び、進の元に駆け寄ってきた。
神童「と、いうわけで次の登板試合はよろしく頼めるかな・・?」
  神童が進の前に手を差し伸べる。
進「・・・・・・・・」
  進は心の整理が付かないのかまだ、ためらっている様子だった。
神童「・・・・進君・・」
  しかし、進はとうとう決心した。進は神童の手を力強く握り締めた!
進「神童さん・・僕でよければ!!」
  
  神童から満面の笑みがこぼれた。
神童「よろしく!!」

  それから二人は少しの間、互いの手を離そうとしなかった・・・しっかりと強く!
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守「・・・・・・・。」
友沢「・・それが神童さんとの最初の出会いですか・・」
進「はい。」
守「随分と、強烈な出会いだな。」
  
  進はきりたんぽ鍋を見つめつづけていた。

友沢「そうだ!その進さんの神童さんとの、最初の試合の事を詳しく
   何があったか教えてくださいよ!」
進「ハイ、もちろん良いですよ!」
守「・・・・・。」
進「・・それから何日か経った日、とうとう神童さんの登板試合になりました・・・・」
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   〜オリックス本拠地・ロッカールーム〜
進「・・・・・・・・。」
  進が、硬い表情でユニフォームに着替えている。
神童「進君、大丈夫かい??具合でも・・?」
  神童はいつもと何も変わらずリラックスして着替えている。
進「そんなことないです!僕は・・大丈夫ですよ!!」
  着替え終えた進は<バタンッ>と、ロッカーを閉めた。
神童「ハハ・・そんな強張らなくても・・。」
  
  神童も自分のロッカーを閉めた。そして二人はグラウンドに出た。
  相変わらず進の表情は硬いままだった・・。まだ、試合開始の何時間前
  とあって、球場内は選手達と報道陣だけであった。

進「神童さん、今なら・・変えても良いんですよ・・。」
  進が今更ながら、弱気を見せている。
神童「・・・・・・。」
進「怖くて、怖くて・・膝がガックガクで・・・。」
  しかし、神童は進の肩を両手で、ガッとつかんだ。
神童「安心しろ!!大丈夫!!僕をそして・・自分自身を信じるんだ。」
  神童の形相が変わった。その目はまるで別人だった。
進「!!!!!!」
  進は目をカッと見開いて神童を眺めた。
神童「楽しく・・楽しく行こう!・・ね?」
  神童はそう言うと、いつもの<神童スマイル>を見せた。
  進はこれで、開き直った。進の表情が・・ほころぶ・・
進「・・・ハイ!!」
 
    それから、何時間経ち・・ついに試合が始まった!

実況「さぁ、間もなくここ、グリーンスタジアム神戸にてオリックス対日本ハム
   の試合が始まろうとしております!今日のオリックスの先発は予想通り
   神童です。本日、両リーグ通じて10勝一番乗りなるか!?」
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  ベンチでは神童と進が落ち着いた表情で球場全体を見渡している。
神童「今更・・なんだけど、君には謝らないといけないね。」
進「えっ!?・・何故です?」
  進が不思議そうに神童の表情を伺う。
神童「君には無理に、バッテリーを組んでもらったからね。本当に
   すまなかったよ・・」
進「何言ってるんですか!僕は、嬉しいんですよ。今となっては、神童 
  さんは僕に大きなチャンスをくれたと思ってます。感謝してます。」
  
  進は自身たっぷりの顔つきで神童を見つめた。
神童「・・・・そうか。それなら良かった・・」
   しばらくの間、二人は黙って球場全体を眺めていた。


神童「さて、そろそろ試合開始だよ。」
進「・・・ハイ・・。」

二人がゆっくりと、ベンチから出る。すると球場内からは大きな歓声が沸き起こった!

実況「さぁ、いよいよプレイボールです!聞こえるでしょうか?今、大きな・・大きな
   歓声がこの二人の野球選手を出迎えます。今シーズンは初スタメンの猪狩進。
   どのようなリードを見せてくれるか、楽しみです。そして神童の好投にも
   期待したいです。」

  猪狩進がマスクをかぶり・・神童はマウンドに立った・・・・

審判「プレイボール!!」
神童「さぁ、全ての配球は君に任す。思う存分、暴れてくれ!」
  神童は、そう思うと進に”ニコッ”と微笑んだ。
進「神童さん・・・・」
  進も、神童に向けて、笑って見せた。もはや二人にとって、<笑い合う>ことは
  意思の疎通の手段に欠かせない物になっていた・・

  進が最初のサインを送る。神童はスグに首を縦に振った。
  そして振りかぶり・・投げた!



          <ズドー−−ン!!!!!!>

  
  神童の150キロの速球は、それは見事に進のミットに収まった。
  進は思わず、心の中で何かがこみ上げてきた・・言葉ではとても言い表せない
  何かが・・・・   そして、神童はこのイニングは何と、三者連続三振という
  素晴らしい、たち上がりを見せつけた・・。そして、二人はベンチに戻っていった。

進「凄い・・凄いですよ・・神童さん!!僕は、何て言ったらいいのやら・・」
  進は、半ば興奮気味に神童に話し掛けた。
神童「・・ハハ・・まだまだあと、8回もあるから気は抜くなよ。」
  そう言われても、進の興奮は冷め止まなかった。

  そして、回が進むごとに神童の調子は劣るどころか、逆に上がっていった!
  そんな神童の様子を、オリックスの監督は満足気な顔で見ている・・。
  7回が終わって、2対0でオリックスのリード・・神童と進はいつしか・・
  一つになっていた。そして・・9回の表。

進「神童さん、あと・・三人です!このまま行きましょう!」
神童「あぁ、僕もますます気合が入ってきたよ!」

  そして、神童がこの試合、最後になるであろうマウンドに立った。
  進の胸がバクバクと音を立てる・・。言い知れぬ緊張感が包み込んだ。

  進がサインを送る。神童がうなずく。そして投げる!!
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審判「ゲ〜ムセット!!」
実況「やりました!!神童、完封勝利!!今シーズン4回目の完封勝利!
   そして、10勝一番乗りです。」

進「やった・・勝った!!神童さん!!」
  進が、神童の元に駆け込む。それをやさしく迎える神童・・
神童「進君、有難う・・。今シーズン・・いや、今までの投手人生の中で
   実に素晴らしい試合だったよ。」

   神童が進と話しながら、ベンチに戻る・・。
   結局この試合、神童は奪三振15、被安打3の無四球で完封勝利。
   当然ながら、今日のヒーローに選ばれた・・。それをベンチから見守る
   進がいた。

進「結局の所、結果を出したのは神童さんなんだ。今日の僕はと言えば、ただボールを
  受け取っているだけだったのかも知れない・・・。打撃は、無安打だったし・・。」

  進はいつもながら、ネガティブな考え方をしていた。考えれば、考えるほど自分に
  自尊心が持てなくなるような気がした・・。ふと、その時であった。

インタビュアー「神童さん、最速10勝目おめでとうございます!!今日は特に、今
        シーズンの中で素晴らしい投球内容だったと思われますが、ずばり
        その要因は何だったんでしょうか?」

神童「・・ハイ、僕はいつも通りでした。調子も・・投球も。しかし、今回は違います。
   今日は本当に素晴らしい日になりました。僕は”猪狩進”選手という最高の捕手
   のおかげで・・このゲームを勝ち星にすることができました。今、ここで改めて
   <有難う・・>と感謝したいです。」

   一瞬、進は、わが耳を疑った。とても信じられなかった。
進「え・・な、何で・・?神童さん、一体何故・・」
  進があれこれ考えている内に、無事、ヒーローインタビューが終了した。
神童「ふ〜・・疲れたなぁ・・。」
  
  神童はタオルで顔を拭きながら、ベンチに再び戻ってきた。するとすぐに
  進は、神童に話し掛けた・・。

進「神童さん・・一体何故、インタビューの時あんな事を言ったんですか?」
神童「ん??」
進「今日の試合は、神童さんのおかげで勝つことが出来たと思います。投球内容を
  見れば一目瞭然です!なのに・・あの場で僕の名前が出てくるのは・・」
神童「いや、君のおかげだよ!!」

  神童はタオルで拭きながら、断言した。
進「!!!!????」

  進は訳がわからなくなってきた・・。しかし、その後、進は
  神童の口から驚くべき事を知る事になる・・。
    
                       <続く>