きりたんぽ回想録 ゴズィラ
第1章「ファーストコンタクト」
〜はじめに〜
きりたんぽとは・・秋田の名産で、炊き立てのご飯をすり鉢で半殺しにつぶし、杉棒に
巻き付けて焼き上げたもの。(たんぽとも呼ばれている)「たんぽ」の
食べ方には切った「たんぽ」を鶏肉や野菜と一緒にしょうゆ味で煮込む
「きりたんぽ鍋」があり、この食べ方が全国で有名になった。
この物語は猪狩進と神童裕二郎と、そして進のオリックス時代の隠された真実・・
猪狩カイザーズは強豪チームの一角。今シーズンは安定した力を見せつけ、
見事、リーグ優勝、日本一にも輝いている。特に、新人王を獲得した「友沢亮」
最多勝、最多奪三振を獲った「猪狩守」、そしてゴールデングラブ賞を獲得した
「猪狩進」。この3人は磐石である。そして、今日秋季キャンプを終えた。
・
・
〜カイザース秋季キャンプ〜
監督「・・・で、あるからにして来年のシーズンも日本一になれるよう
より一層、これから努力していくように!以上!!」
友沢亮「ふぅ〜、やっと終わりましたね。」
猪狩守「おいおい、君は<新人王>を獲ったんだろう。これくらいの事で根を
あげてもらうと、困るね・・」
友沢「な!?・・なにをぉーー!」
猪狩進「はい、ストップ!!ここまでですよ。」
2人の喧嘩の火消し役は、守の弟の猪狩進の仕事である。
守「ムゥ〜・・」
友沢「・・フン!」
進「ハァ〜〜・・二人とも、もう少し素直になりましょうよ・・」
「ビュー−ーーッ!」 突然、猛烈な北風が吹いてきた。
友沢「うわっぷ!・・うぅ、寒い・・」
守「確かに、寒いな。」
進「はい、今夜は冷えるらしいです。・・そうだ、二人とも僕の所で、晩御飯を
食べていきませんか??」
友沢「いいっすね!!ご馳走させてください!」
友沢は、即答した。
守「・・・・・・まぁ、いいか。ところで今夜は何を作ってくれるんだ?」
進「そうですね、じゃあ、<きりたんぽ鍋>なんてどうでしょう!最近、おいしい
食材が手に入ったんです。<進・特製>のをご馳走しますよ〜。」
友沢「・・・何ですか?それは・・・」
友沢は目を丸くして、進に尋ねた。
守「君は<きりたんぽ鍋>も知らないのかい?・・フッ・・」
友沢「ムッ!!」
またこの二人、一触即発の予感である。
進「ハイハイハイ・・きりたんぽというのは、炊いた米をすり鉢で適度にすり潰して、
杉・・だったでしょうか・・その棒に巻きつけて焼いたものです。これを野菜や
鶏肉で煮込んだものが<きりたんぽ鍋>なんです!!」
友沢「うはっ!!美味しそうですね!早速行きましょう・・守さんも早く!!」
守「全く、君はもう少し遠慮というものを・・」
進「まぁまぁ、兄さん・・それでは行きますか!!」
・
・
三人は着替えて、進の家に向かった。そしてしばらくし、進の自宅(賃貸マンション)に着いた。
彼は一人暮らしである・・。進は、自分の部屋のドアを開けた・・<ガチャ!>
友沢「お邪魔しま〜す!」 守「・・・・・・・」
進の部屋は、やはり彼の性格が出ているのか、きちんと綺麗に整っている。
寒い季節には欠かせない、コタツもある・・。
友沢「うわぁ〜、コタツがぬくい!!」
進「それじゃ、すぐに用意します。できるまでくつろいで下さい。
あ、でも喧嘩は御法度ですよ!」
そして、この夜、友沢と守にとっては、実に忘れられない夜となった。
やがて、きりたんぽ鍋が完成した。見る限りの所、具沢山で美味しそうに見える。
もちろん、主役の<きりたんぽ>も美味そうだ・・鍋をコタツの中央に置き、
三人がそれを囲むように座った。
進「さぁ、いっぱいありますから遠慮なくどうぞ。」
友沢「いっただきまっす!!」 友沢は、がっつくように食べていった。
守「うぅ、君はもうちょっと、落ち着いて食べれないのか!? 」
友沢「だって、美味いものは美味いから、しょうがないじゃないですか!!」
守「微妙に理由になってない・・・けど・・まぁ、確かに美味しいな。」
進は少し、微笑んだ・・。
進「気に入って貰って、嬉しいです!」
その後、しばらく3人は談議しながら食事をしていった。すると・・
友沢「あ、そうだ!テレビつけてもいいですか?スポーツニュースが気になるんです」
進「えぇ、どうぞ・・。」 そう言われると、友沢はスイッチを入れた。
キャスター「・・大リーグ、レッドエンジェルスの神童裕二郎投手が、なんと今季の
MVPに選ばれました。2年連続の快挙となりました。神童選手は今季、
23勝5敗という素晴らしい成績を・・・・」
友沢「凄いですよね。そういえば進さんも神童さんとは、チームメイトでしたよね!?」
友沢がそう言うと、進は寂しそうな顔になり、黙り込んだ・・。
友沢「ん??」 守「・・・・・・・」
すると、進はきりたんぽ鍋を眺めながら、このように言った。
進「・・そういえば、あの日の夜も<きりたんぽ鍋>・・だったっけ。」
しばらく、沈黙がその場を支配した。すると・・
守「ど・う・や・ら、あの神童投手との間に何か深い過去があると見た。確かに進は
オリックスであの人とは、チームメイトだったが・・あの人との事を・・話して
くれないか?」
友沢「お、俺も知りたいです!!詳しく教えてください。」
そう言われると、進はニッコリ笑い、二人を見つめた。
進「いいですよ!僕も前から言おうと思っていましたが・・いい機会なので話させて
頂きます。あの頃は神童さんの他にも、いろんな人がいましたが、その人たちの
事も交えて話をすることにしましょう。」
友沢は、おもむろにテレビのスイッチを切った。
友沢&守「・・・・・。」
進「あれは・・今から何年前のことでしょう・・・。」
・
・
・
・
〜オリックス本拠地・グラウンド〜
監督「えぇ〜、皆も知ってる通り今日から新人の<猪狩進>が1軍に昇格する。
それでは、本人から自己紹介してもらうぞ。」
進「えっ、あ、はい!・・猪狩進です。精一杯がんばっていきます!よろしく
お願いします。」
「パチパチパチパチパチ!!」
割れるような拍手が、進を迎え入れてくれた。その後、選手たちは練習に入った。
進「はぁ〜、緊張するなぁ。僕と同じルーキーの人は・・居ないな・・。」
進が一人寂しく、ストレッチをしようとした。すると・・
神童「やぁ、君があの、猪狩進君かい?初めまして!」
オリックス、エースの神童裕二郎が進のすぐ横に座った。
進「!!!え、え、あ、ハジメ・・マシテ・・・」
進が驚くのは無理も無い。チームのエースピッチャーが自分のすぐ、横に
座っているのだから。
神童「一緒に、体操してもいいかな??」
進「は、はい!お願いします。」
神童「ハハハ、そんなに硬くならなくても大丈夫だよ。ところでこの時期、新人で
一軍に昇格したのは君だけらしいね。凄いじゃないか!!」
進「と、とんでもない・・神童さんなんて、昨年は最多勝、MVPやら受賞していますし、
今年も<最多勝は確実だ>なんて言われてるし・・僕なんか・・」
神童「う〜ん、僕は野球選手に大切なのは、何も<賞を沢山、獲った>とか
そういう事じゃないと思うんだよね。」
神童はそう言うと、進に微笑みかけた・・。
進「えっ・・・・」
神童「僕はね・・結局の所、野球が好きで、好きでたまらなくて、それでいてくじけず頑張ろう!!
という気持ちがあれば、良いと思うんだよね。そうすれば、結果も自然と、付いてくると思うし、
何より<自分が、チームの勝利に貢献した!>これほど喜ばしい事は無いね!」
進「・・・・・!!」
進は、神童の話を聞いて兄・猪狩守とは違った魅力を感じた。
神童「よいしょ!体操終わりっと。進君、この後・・僕の球を受けてみないか?
君、キャッチャーだろ?」
突然のことで進は一瞬戸惑ったが、すぐ即答した。
進「はい!!是非、お願いします。」
そしてその後、投球練習に入った。進がキャッチャーマスクをかぶる。緊張しているせいか
手がワナワナ震えていた。
進「はぁ〜、落ち着け・・落ち着け・・」
そのうち、神童がマウンドに上がった。進は心なしか、威圧感を感じた。
神童「準備は出来たかい?それじゃー、ストレートから行くよ。」
進は急いで、定位置についた。そして、神童が振りかぶった・・・
「スッパァーーーーーン!!!」
神童の150キロの豪速球は、進のミットに見事収まった。
進「!!!!!!」 進は驚いて言葉も出なかった。
神童「さぁ、どんどんいくよ♪次は・・・・」
神童と進の投球練習は続けられた・・。その間、進は神童の持ち球全てを、
投げてもらった。スライダー、カーブ、フォーク・・。そのうちだんだんと、進は
神童の球に慣れてきた感じがした・・。そして・・
進「フ〜〜ッ、・・」
神童「よし、ここまでにしておこう!進君、付き合ってくれて有難う!!」
進「そ、そんなお礼なんて・・僕は神童さんの球を受けれたから、僕がお礼を言いたい
くらいですよ。」
するといきなり神童の口から思いもしない言葉が出た・・
神童「進君、次の試合は一緒にバッテリー組まないかい?」
<続く>